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2022/03/04

ポップ・フュージョン前の渡辺貞夫充実期の過去作を配信してほしい


(5 min read)

 

https://www.sadao.com/discography/

 

ジャズ・アルト・サックス(&ソプラニーノ&フルート)奏者、渡辺貞夫さん壮年期の過去作が、あまりCDリイシューもされないし、サブスクなど配信となるとどれもまったくありませんよねえ。ファンであるぼくはだいぶ悔しい思いを重ねてきています。

 

CDでも配信でもぜんぜんリイシューされていないぞと思うのは、1960年代末ごろから70年代なかごろにかけての諸作の一部。たとえば『パストラル』(69)、『モントルー・ジャズ・フェスティバルの渡辺貞夫』(70)、『ペイサージュ』(71)、『渡辺貞夫リサイタル』(76)なんかはCDですら一度も出ていないんじゃないですか。

 

1974年の東京ライヴ『ムバリ・アフリカ』は二度CDリイシューされ、また『渡辺貞夫』(72)や『スイス・エア』(75)も一度はCDになりましたので、ぼくも買いました。それをMusicアプリ(旧名iTunes)に入れてあっていつでも聴けるからいいんですけど、サブスクだとこれらもぜんぶありません。

 

Spotifyで貞夫さんのカタログをさがすと、初期のストレート・ジャズ時代のものはまずまずあります。その後はずっと一作もなく、1977年の『マイ・ディア・ライフ』からようやく見つかりはじめ、その後はコンスタントに現在の作品まで載っています。しかしなぜだか81年の傑作『オレンジ・エクスプレス』だけは姿がないという、そんなありさま。

 

どうなっているのでしょうねえ。忘れられないことですが、LPレコード時代に貞夫さんのトータル・キャリアをじっくり追いかけてたどっていた身としては、ポップ・フュージョン期に突入する直前、1970年代前半ごろの貞夫ミュージックがかなりおもしろかったという記憶があります。

 

ビ・バップのコピーからはじめた貞夫さんですが、アメリカ留学およびそこでの重要人物との出会いを経て、ブラジルやアフリカの音楽文化を吸収しそれをモダン・ジャズと融合させ、あらたな時代の音楽として表現する取り組みを開始したのが1960年代末〜70年代初頭でした。77年の『マイ・ディア・ライフ』からがポップ・フュージョン期で人気も獲得しましたが、その直前がかなり興味深かったんです。

 

しかしいまとなってはそれをたどって検証しようにも、聴けないんですからどうにもなりません。むずかしいことを考えたり言ったりしたいというよりも、単純に楽しかったからもう一回聴きたい!と思っているだけなのに、多くの作品がどうにもならず。過去にリリースされていたアナログ・レコードを中古でさがして買うしかないのかなぁ…と思うと、正直ガッカリです。

 

いちばん上でリンクしておきましたように貞夫さんには公式サイトがあって全作品のディスコグラフィーが掲載されています。だれでも見ることができますが、音楽ですからね、聴けなくちゃお話になりませんよ。一部CDリイシューすらしないというのにはなにか理由があるんでしょうか?!サッパリわかりません。

 

ましてやいまはサブスク全盛時代。ちょっと気になった音楽家の過去作を、パッと探して見つかればすぐそのまま手軽に聴けて具合いいっていう、そういう時代です。ひとによってはその場でちょっと聴いてみるだけでしょうが、なかにはサブスクでじっくり舐め尽くすようにアルバムを聴き込んで堪能・吟味し考察をはじめるという人間だっているんです、ぼくだけじゃないはず。

 

『マイ・ディア・ライフ』(1977)以後の貞夫ミュージックこそポップで人気があるんであって、いまさら1970年代前半の、あの荒削りだった時代の貞夫さんの音楽なんかだれも見向きなんかしないぞと考えるひとがもしいるのならば、聴いたことがない証拠です。若くて荒削りであったがゆえのエネルギーとナマナマしい迫力、リアリティに満ちていたんですから。

 

渡辺貞夫フュージョンが1970年代後半に一息に完成したんじゃない、それなりの準備段階やプロセスがあったのだ、ということをいま一度実際の音で確認・検証し、貞夫ミュージックの足跡をたどりながら、あの時代もそれなりにすばらしかったということを、ぼくだったらもう一回ぜんぶ通して聴きかえして楽しみたいですけれど。

 

(written 2021.12.8)

2022/03/03

ゼップの『フィジカル・グラフィティ』とストーンズの『タトゥー・ユー』は似ている


(5 min read)

 

Led Zeppelin / Physical Graffiti
https://open.spotify.com/album/4Q7cPyiP8cMIlUEHAqeYfd?si=ICOP38hCSj6h4g1014fUkw&dl_branch=1

 

The Rolling Stones / Tatto You
https://open.spotify.com/album/4F0eas0fmQSnb490QxZbD1?si=3xG-I3iXTN2l5D-a0B4FVw&dl_branch=1

 

レッド・ツェッペリンの『フィジカル・グラフィティ』(1975)とローリング・ストーンズの『タトゥー・ユー』(1981)には共通点があります。どちらも当時の新リリース・アルバムでありながら、新録は少なくて、過去の未発表音源を流用してお化粧をほどこしたものが多く収録されているということです。

 

どんな音楽家でも、新作プロデュースにあたり新録じゃなく過去音源を使う、混ぜるというのはよくあることだと思うんですけれども、それでも特にロック・ミュージックの世界では、あらたにリリースするアルバムのプランを組み、曲も書いて用意して、というパターンがビートルズ以後一般化したでしょう。

 

なので、ツェッペリンの『フィジカル・グラフティ』とストーンズの『タトゥー・ユー』はやや例外的なような気がするんですよね。ツェッペリンのばあいは1973年のアメリカン・ツアーを終了して同年暮れから新作の準備のためにスタジオ入りしたものの、ジョン・ポール・ジョーンズの脱退騒動が起きてしまい、一時中断を余儀なくされていました。

 

それが収束して74年春にレコーディングが再開し、結局多くの曲ができあがってしまったので、そこからLP一枚に収まるように削るよりも、過去に録音済みの曲を持ってきてふくらませ二枚組で発売したらどうか、となったみたいです。

 

それで、新録八曲にくわえ、『レッド・ツェッペリン III』、『(四作目)』、『聖なる館』のために録音済みだった未発表音源七曲が足され、結果的に新録と旧作が半々くらいの割合でアルバムに入り混じる結果となりました。

 

ストーンズのほうはといえば、1980年の『エモーショナル・レスキュー』発売にともなうツアーが一年延期され、そのツアーに間にあわせるため急遽次のニュー・アルバムのリリースが必要とされました。にもかかわらず当時のミック・ジャガーとキース・リチャーズは不仲だったため新曲づくりが進まなかったのです。

 

そのためプロデューサーのクリス・キムジーが、これまでにストーンズが残してきた膨大な未発表音源を調べあげることにして、未完成のベーシック・トラックにオーヴァー・ダブを施していくという手法を選択しました。『タトゥー・ユー』に収録された曲のほとんどは、過去のセッションからのアウトテイクをもとに制作したものだとみなさんご存知のとおり。

 

ツェッペリン、ストーンズいずれの作品とも、できあがりに統一感があって、聴いて流れに違和感のないアルバムにしあがっているのは、ひとえにエンジニアの尽力のたまものなんですね。ツェッペリンはキース・ハーウッド、ストーンズのほうはボブ・クリアマウンテン。

 

そのおかげで、年代も録音場所もバラバラである楽曲群が統一感のあるサウンドに聴こえるわけです。特にストーンズをてがけたボブ・クリアマウンテンは辣腕エンジニアとしてこの後一世を風靡していくことになりましたが、世に出たきっかけがストーンズの『タトゥー・ユー』でした。

 

しかもそんな間にあわせ的に制作・リリースされたものなのに、ツェッペリンの『フィジカル・グラフィティ』もストーンズの『タトゥー・ユー』もヒットしました。バンドのキャリアを代表する傑作とまで評価されるようになって、ちょっと皮肉なことですよねえ。

 

さらに、ストーンズにとっての『タトゥー・ユー』は、象徴的な時代の転換点にあった重要作ともなりました。これにともなうツアーはライヴ・アルバム『スティル・ライフ』となって発売もされましたが、スタジアム・サイズのツアーを全世界的にくりひろげるようになる最初だったのです。現在でも続くストーンズのライヴ・スタイルを導いた最初の作品だったと言えます。

 

(written 2021.10.3)

2022/03/02

ちょっぴりレトロなラテン・ポップ・ビッグ・バンド 〜 ビーグル!


(2 min read)

 

Bigre! & Célia Kameni / Tumulte
https://open.spotify.com/album/20PfM1hrhO9GDGXMoROt1i?si=m7uDa14_TnOUF1HF0JvOtg

 

リヨンを拠点とするフランスのビッグ・バンド、ビーグル!(ディスクユニオンの表記はなぜかビグレ!だけど)。2021年新作『Tumulte』もラテン・ミュージック方法に傾いたというかそれがベースにある音楽をやっています。

 

ややレトロなムード、ヴィンテージ感覚をただよわせているのがビーグル!の魅力の一つなんですが、それはフロントでヴォーカルをつとめるセリア・カメニのキュートでコケティッシュな味のおかげでもあります。

 

それ+、バンドの音楽も1930〜50年代ふうのラテンというかアフロ・キューバン・ミュージックをやっているので、ぼくら世代より上くらいだとなつかしさというか一種のノスタルジーを感じてニンマリするっていう、そんな音楽じゃないかと思います。いまや若い世代にはそれがかえって新鮮かも。

 

ラテンだけでなく、そもそもジャジーな要素もあるし、ソウルフルだったりファンクっぽかったりもして、しかも多くの曲で楽器奏者のアド・リブ・ソロもしっかり聴けて、それがまた充実しているっていう、つまりラテンを軸にさまざまな音楽をミクスチャーした内容になっているのがいいです。

 

おしゃれでカッコよくもあるし、レトロなフィールはここ数年の時流とも合致しています。1930年代ふうテイストまでをも感じさせるセリアのチャーミングなヴォーカルとあわせ、現代に好感を持って迎えられそうなアルバムですね。

 

(written 2022.2.21)

2022/03/01

ラルフローレン ポロシャツ 親子ペア


(4 min read)

 

タイトルでぜんぶ言っていますけれども、ホントこのとおりです。いまどき公式ホーム・ページか公式ソーシャル・メディア・アカウントを持っていない音楽家はいないくらいですが、新作のレコーディング・データをきっちり載せているか?となると、まだまだと言わざるをえません。

 

なぜこれを言うかというと、サブスクで音楽を聴くのが主流になったからです。レコードなりCDなりであれば、付属ブックレットに演奏パーソネルやその他各種データが載っているでしょう(CDでもやらないアンガームみたいなケースもたまにあるけど)。

 

けれど、もういまやフィジカルじゃなくサブスクで音楽を聴く時代。そのままでは新作の基本情報が入手できません。そこがどうしても気になる、というのはぼくがジャズ聴きで古いタイプの音楽ファンだからかもしれませんが。

 

でも、あっ、ここのこのギターいいな、このツヤっぽいサックス・ソロはだれが吹いてんの?みたいなことが気にかかるというのは、ある意味とうぜんでしょう、それが人間の心理というものですよ。

 

ところが、それを知る手がかりがないんです。フィジカルを買わなかったら。

 

だからネットで検索するんですが、どうしても見つからないってことがあります。CDなり買ってよというメッセージかもしれませんが、もはや2022年にもなってねぇ、そりゃないぜ。時代の流れに逆行しているでしょう。なんども書いていますけど、一枚2000円前後のフィジカルと、ひと月980円のサブスクとでは、貧乏人に選択の余地はないんですから。

 

というわけでサブスク聴きの熱狂的音楽リスナーにとっては、パーソネルなどレコーディング・データを知るのはネット検索がすべて。マジですべてです。でも、いちいちここにあるかな?あ、ないね、じゃあこっち?とさがしまわらなくても、公式サイトですぐわかるようになっていればどんだけ便利なことか。

 

ぼくが公式サイト(か公式ソーシャル・メディアでの投稿)に載せてほしいと思う情報は以下のとおり。

 

・演奏パーソネル
・各曲の作詞・作曲者
・プロデューサー、アレンジャー
・録音スタジオ(ライヴのばあいは会場)
・エンジニア、ミキサー
・できれば録音年月日
・ジャケットのアート・ワークをてがけたデザイナー、フォトグラファー

 

こういった情報、過去の名作みたいなものであればたいていWikipediaがあって、ほぼどれもわかるんですけども、問題は新作ですよ。新作でもよっぽど有名で注目度も高い音楽家の注目作ならWikipediaが速攻でできることもあります。

 

でもそんなケースはレアなので、ネットで音楽家名とアルバム名で検索しまくって、それでどこかに載っているのを参考にしているわけです。公式サイト、レコード会社のHP、CDショップのサイトなどなど。それで見つからなかったら当該音楽家のソーシャル・メディア・アカウントをさがします。

 

そこまでやってもどうしても見つからない、どこにも載っていないというばあいがわりあいあって、困ったもんだなあと思っていますよ。テキスト情報が載せられないっていうのがサブスク最大の欠点で、これを補うため、リスナーの利便のために、音楽家や会社側は積極的にこの手のレコーディング・データをネットに公式掲載してほしいと、強く強くお願いします。

 

(written 2021.9.29)

2022/02/28

オーナーズリーグ 巨人 まとめ売り


(3 min read)

 

Stro Elliot, James Brown / Black and Loud: James Brown Reimagined
https://open.spotify.com/album/4ysy6umDtSHhJ84ebHElVu?si=POBRJH3kTmCNzvjTnscaZg

 

ヒップ・ホップ・グループ、ザ・ルーツの現行メンバーでマルチ楽器奏者、DJ、プロデューサー、ストロ・エリオットによるジェイムズ・ブラウンのリミックス・アルバム『ブラック・アンド・ラウド:ジェイムズ・ブラウン・リイマジンド』(2022)は、ここ数年のBLMムーヴメントと共振して誕生したんじゃないかと思えます。

 

JBくらいの大物になると「簡単に触っちゃダメ」「リミックスなんて必要ない」という声もたくさんあるでしょうが、ひるまず果敢に歴史と対話して連続性を証明してみせたストロ・エリオットの気概に敬意を表したいですね。

 

ストロはJBのヴォーカルだけ基本的にオリジナルをそのまま使いながら、伴奏の楽器群を大胆に入れ替えています。特にリズム・セクションはまるきり全面的に差し替えているというのに近く、聴いた印象ではビート感がまったく違って、現代的に更新されているなとわかります。

 

そのことでストロはJBがそもそも持っていた強力でヴァイオレントなナマの身体性をよりいっそうむきだしにして、さらにパワフルなフィーリングに仕立て上げているように聴こえますね。このばあいのパワーとはつまり2020年来のBLM運動でブラック・アメリカンたちが怒りと抗議の声をあげているそのパワーということです。

 

それを表現せんがためストロは新しいビートをJBミュージックに付与しているわけですが、考えてみればJBはもともとBLM的な考えかたを1960年代から強力に推進してきたアメリカ黒人音楽界のファースト・ランナーでした。当時は公民権運動のさなかでしたが、2020年代のBLMムーヴメントへとそれが連続している、意味は失われていないというのを痛感しますね。

 

いまの時代にJBがブラック・コミュニティで大きく再評価されるとすれば、まさにこの一点にかかわっているんじゃないかとぼくは思います。あの時代からアメリカ社会で黒人としてプライドを持って生き、音楽をつくり、歌い叫び、闘ってきたことが、音楽的にはヒップ・ホップの素地であり、社会的にはBLMの先駆であったと。

 

ジェイムズ・ブラウンの永続性と強固なポジティヴィティを2020年代にこれ以上パワフルに表現してくれた音楽は、いまのところありません。

 

(written 2022.2.26)

2022/02/27

わさみんカヴァーズをサブスクに


(5 min read)

 

Spotifyなどサブスクで聴けるわさみんこと岩佐美咲は、全10曲のシングル表題曲(+1)だけ。これではあまりにもったいない、むしろカップリングのカヴァー曲やアルバム収録曲をこそサブスクで聴けるようにしてほしいという声はそこそこあります。

 

わさみんカヴァーズのなかには超絶名唱としてファンのあいだで語り継がれているものだってあるんですからね。おおまかに濃厚抒情演歌系とライト・ポップス系に大別できると思いますが、ヴァーサタイルな歌唱能力を持つ美咲はいずれも同じように歌い同じようにぼくらを感動させてきました。

 

濃厚抒情演歌系では、やはりなんといっても「風の盆恋歌」(「佐渡の鬼太鼓」特別盤C、2018)が絶品。石川さゆりが初演ですが、身を焦がすような切なく苦しい実らない恋情をつづったこれはわさみんの持ち味にピッタリですし、実際、2018年2月恵比寿でのコンサートで披露されたとき、ぼくをふくむその場にいたファンはみんな泣いたんです。

 

あまりにもすばらしかった、ぜひまた聴きたい、発売してほしいとの声が高まり、それを受けるようにスタジオで歌いなおしたものが同年八月にCDリリースされました。しかしこれもサブスクにはなし。どんなに絶品だと泣けど叫べど、ちょこっと試聴してもらうことなどかないません。CD買ってよ、と言うしかなく、いまどきもはやそんなのねえ。

 

「旅愁」(「佐渡の鬼太鼓 」特別盤A、2018)や「遣らずの雨」(「恋の終わり三軒茶屋 」特別盤B、2019)もすばらしいできばえ。もともと美咲はずっと前からこの手の演歌を歌うときに才能をみせてきた歌手で、ファースト・アルバム『リクエスト・カバーズ』(2013)からすでに「越冬つばめ」みたいな佳品がありました。

 

その後も『美咲めぐり ~第1章~』(2016)には「北の螢」「なみだの桟橋」があったし、同時期に発売された「石狩挽歌」(「鯖街道」通常盤、2017)もみごとな歌唱でした。しかしどれもこれもCD買うしか聴く方法がないんですからね。んも〜、徳間ジャパンのいけず!

 

ライト・ポップス系なら、たとえば「20歳のめぐり逢い」(「初酒」生産限定盤、2015)なんか、もう最高じゃないですか。そしてなんといっても「糸」!これ、これですよ、美咲史上最高傑作かもしれないとの声まであるこれこそ、サブスクで聴けるようにしてほしい第一位。2017年5月の弾き語りコンサートで披露され、録音されてそのまま同年の「鯖街道」(特別記念盤)に収録発売されました。

 

美咲のこのヴァージョンの「糸」は、同曲全歌手全カヴァー中でもNo.1といえるんですが、サブスクにない以上、ぼくらファンがどれほど絶賛しようとも美咲を知らない音楽リスナーが手軽にちょっと聴いてみることなどできません。

 

美咲のこの「糸」にかんしては、やや苦い思い出もあります。ブログでたびたびとりあげて称賛してきましたが、たまたまあるとき2021年にあるかたとおしゃべりしていて、ブログ更新のSNS通知でみかけたんだけど、どこで聴けますか?すごくいいんでしょ?えっ、CDしかない?う〜ん、それじゃあねえ、もういまどきCDじゃないとっていうのはちょっとねぇ、と言われ、結局そのまま退かれてしまいました。

 

せっかくちょっとだけでも興味を示してもらうチャンスが来たんだから、それを逃さず聴いてみてもらうことが肝心だと思うのに、みすみすあきらめるしかないなんて…。

 

そのかたはApple Musicの常用者だったんですけど、ホント、こういうことが間違いなく日常的に頻発していると思います。ちょこっと興味を示されることがあっても聴いてもらえない、聴かれなかったらどうにもなんないでしょ、音楽なんだから。どうか公式発売された美咲の全楽曲をサブスクに入れてほしい>徳間ジャパンさん!

 

「風の盆恋歌」とか「20歳のめぐり逢い」とか「糸」とか、ちょちょっと耳にしてもらうことさえできれば、美咲がどんだけすばらしい歌手なのか、わかっていただけて、ファン拡大に、つまり売り上げ増につながるのは間違いないと思うんですよ。

 

(written 2022.2.23)

2022/02/26

誇り高き孤独 〜 リアノン・ギドゥンズ「思ひで」


(2 min read)

 

Silkroad Ensemble with Rhiannon Giddens / 思ひで
https://www.youtube.com/watch?v=O2N4diCfP5c&t=8s

 

能地祐子さんのツイートで知りました。
https://twitter.com/oreberry/status/1494665302269128705

 

音楽集団シルクロード・アンサンブルと二代目芸術監督リアノン・ギドゥンズが、鈴木常吉(セメントミキサーズ、つれれこ社中)の「思ひで」(『深夜食堂』オープニング曲)をカヴァーしました。昨2021年11月、マサチューセッツはケンブリッジでのライヴ・パフォーマンス。これが絶品です。

 

シルクロード・アンサンブルからコントラバスとハープだけを従えて、リアノンは常吉の日本語原詞のままカヴァーしています。常吉の「思ひで」だって、もとはといえばアイリッシュ・トラッド「プリティ・ガール・ミルキング・ハー・カウ」ですから、リアノン&シルクロード・アンサンブルがやるのにそんな意外性はありませんけど。

 

でも日本語詞のまま、それをアメリカでやるというのはなぜだったのか、考えてしまいます。いずれにせよリアノンらのヴァージョンは、孤独感、寂寥感が著しくきわだっていた常吉のオリジナルに比し、高らかに飛翔するというような誇りに満ちた美しさをまとっているのが最大の音楽的特徴。

 

それにより、常吉オリジナルの表現していた人間のかかえるソリチュードが美的に昇華されていくかのような心持ちがするっていう、そんなパフォーマンスじゃないでしょうか。ハープもベースも音の粒だちがきわめてよくて、録音状態がすばらしいせいでもあるんですが、リアノンが完璧な日本語で歌う孤高のプライドを実にクッキリとふちどりしています。

 

と同時に常吉の「思ひで」が、もとからワールド・ミュージック系の越境的なひろがりをはらむ普遍的な曲だったのだということにも気づかされ、あまたの日本語曲からこれをチョイスしたリアノンとシルクロード・アンサンブルの慧眼にも感心します。

 

(written 2022.2.25)

2022/02/25

ラテンなハード・バップのB級作品 〜 ベニー・グリーン


(5 min read)

 

Bennie Green / Back on the Scene
https://open.spotify.com/album/19v2KYL9fSmB3nOBA0oTFf?si=V5lrrnulTZuY9c3MgKMjeQ&dl_branch=1

 

なんでもトロンボーンという楽器を「鈍くさい」といって嫌うひともいると知ったのは、2005/6年ごろ、mixiでのこと。ジャズ・コミュニティでおしゃべりしていてでした。世のなかホントいろんな嗜好があるもんです。

 

そんな嫌われもの?ジャズ・トロンボーン奏者のひとり、ベニー・グリーン(Bennie Green)が残したアルバムのなかでぼくが最も好きなのは、1958年の『バック・オン・ザ・シーン』。まずなんたってジャケットがいいです、渋いけど味があって。

 

それ以上に、アルバムの大半でラテン・リズム・フィールが横溢しているのが最高に好み。ハード・バップにだってよくあるパターンではありますが、ここまでラテン・テイストで一貫している作品というのも少なかったのでは。いや、ジャズのなかにラテンは抜きがたい要素としてありますけれども。

 

といってもですね、本作の全六曲中、最後の二曲でラテン・リズムはまったく聴けません。ごくありきたりのハード・バップです。ぼくが言っているのはその前の四曲ってことなんですね。

 

1曲目の「アイ・ラヴ・ユー」なんか、コール・ポーターの書いたなんでもないスタンダード・バラードなのに、出だしのこのリズムを聴いてください。ピアノ(ジョー・ナイト)とドラムス(ルイス・ヘイズ)が共同でラテン・リフを演奏しているでしょう、それがイントロで、サビを除くテーマ演奏部だってラテン風味。

 

こういうのがぼくは大好物なんです。この曲もソロ・パートになるとメインストリームな4/4拍子で演奏しているっていう一般的なハード・バップ・マナーですけどね。最終テーマ演奏部はやはりラテン・ビートを効かせてあって、イントロと同じラテン・リフをアウトロとして使い、そのままフェイド・アウト。

 

2曲目「メルバズ・ムード」なんか、もう完璧なるラテン官能バラード。この手の曲想にはトロンボーンという楽器の音色がよく似合います。作曲者のメルバ・リストンもジャズ・トロンボーン奏者ですよ。

 

ここでのベニーらによるヴァージョンは、アフロ・キューバン好きだったホレス・シルヴァーによる1958年当時のタッチを思い起こすよう。「セニョール・ブルーズ」とか、あの手のやつ。「メルバズ・ムード」も最高の一曲です。

 

3曲目がおなじみのスタンダード「ジャスト・フレンズ」で、これも1曲目同様テーマ演奏部でラテン・リズムにアレンジしてあるっていう(ソロ・パートはメインストリーマー)。このへんまでくれば、ラテン・リズムがベニーのこのアルバムを通底するムードなのかも?と気づきます。

 

4曲目「ユア・マイン・ユー」はとてもプリティでリリカルなバラード。ラテンの片鱗すらない感じで進みます。しかしその前半のベニーのトロンボーン・プレイがチャーミングできれいで、こういったバラードをつづるのにトロンボーンという楽器はまたとない絶好の楽器だと納得しますよね。

 

二番手で出る短いテナー・サックス・ソロ(チャーリー・ラウズ)も雰囲気をそのまま引き継ぎますが、すぐまたふたたびベニーのトロンボーンにチェインジして、そのまま最後まで。ベニーによるテンポ・ルバートのコーダ部になって、あぁ終わるんだ、と思った刹那、突如ピアノとドラムスがラテン・リフを演奏するんです。

 

ほんのちょっとのあいだのことですけれど、これがこの曲の演奏全体のいいアクセントになっているじゃないですか。コーダ部でこうやってラテン・フックを軽く効かせることで、バラード・ナンバーとしてのコクと深みが出ています。

 

特にどうってことない、この時期のブルー・ノート・レーベルにはたくさんあったありきたりのB級作品ではありますが、ふだんセロニアス・モンクのもとで演奏しているときよりもハツラツとしているように聴こえるチャーリー・ラウズもいいし、なかなかどうして見過ごせない一作ですよ。

 

(written 2021.10.11)

2022/02/24

人生の辛苦と充実 〜 坂本冬美『LOVE SONGS III』


(2 min read)

 

坂本冬美 / 愛してる…LOVE SONGS III
https://open.spotify.com/album/6sl028rYpUdpP4KFte7ysu?si=ElrZhuYVRWS8stl0GMouPQ

 

きのう書いた坂本冬美2009〜15年の『Love Songs』シリーズ全六作。そのうち三作目の『愛してる…LOVE SONGS III』がかなりすぐれていて感動したにもかかわらずプレイリストに入れなかったのは、これだけ例外的に傾向が異なるアルバムだからです。

 

というのもこのシリーズはすべて古い歌謡曲スタンダードのカヴァーで構成されているのに対し、この三作目だけは全曲オリジナルなんですよね。どの曲も冬美のこのときのレコーディングのために新たに書き下ろされたもの。

 

そういうわけで『Love Songs』シリーズのなかでは異様なありようを示しているこの三作目、内容の傑出具合も異様です。カヴァー/オリジナルの別を言わなければ、シリーズ中最高傑作に違いありません。

 

曲そのものがどれもすばらしいですが、特にタンゴふうのアコーディオンまで入ったラテンな4曲目「愛に乾杯」、切々とした感情を実にたまらないフィーリングでつづる5「遠い波音」、6「いとしいひと」、このあたりなんかはもう泣そうになっちゃうくらい。「遠い波音」なんか、この歌詞いったいだれが書いたの?と思うほど切ないけど、村山由佳なんですね。

 

いずれもこのアルバムのために用意されたオリジナル・ソングですから、有名曲のカヴァーばかりっていうこのシリーズを通して聴いていたとき、最初あれっ?と感じたのも納得です。と同時に、この哀切感が濃厚にただようオーケストレイションとヴォーカルはタダモノじゃないぞと震えもしました。

 

そう、どの曲も当然初耳で、しかもたいへんすばらしいのでビックリしたんですよね。このアルバムでの冬美しか歌っていないので、世間的な知名度はゼロですが、すばらしいので、ぜひ一度耳を通してほしいと思います。

 

終盤10曲目「人時(ひととき)」と11「そしてまた会いましょう」には、この悲恋感に満ち満ちた作品をみごとに転換し締めくくるポジティヴ・フィーリングがあって、人生の辛苦と充実をみつめかみしめてきた人間にしか書けず歌えない強い説得力を放っています。

 

(written 2021.11.22)

2022/02/23

21世紀のアダルト・オリエンティッド歌謡曲 〜 坂本冬美『Love Songs』シリーズ


(5 min read)

 

坂本冬美 / LOVE SONGS ベスト
https://open.spotify.com/playlist/0hn865M9Wc4eF1EcPwZKa9?si=96cae94be7684725

 

2021年10月初旬に観にいった坂本冬美のコンサートで最も感心したのは「白い蝶のサンバ」「喝采」という二曲のカヴァーでした。オリジナルから大きく姿を変え、しっとりおだやかで落ち着いたバラードになっていたんです。

 

そんな冬美ヴァージョンが初耳だったぼくはちょっとビックリし、感動もして、調べてみて、それら二曲がそのままのアレンジで冬美2013年のカヴァー・アルバム『Love Songs IV〜逢いたくて逢いたくて』に収録されていることを知りました。

 

そこから芋づる式にたぐってわかったんですが、冬美はこれをシリーズ化しています。2009年の『Love Songs 〜また君に恋してる〜』にはじまり、15年の『LOVE SONGS VI〜あなたしか見えない〜』まで、トータル六作。

 

いずれも遠い過去に歌われたラヴ・ソング系歌謡曲のカヴァー集(Vol. IIIを除く)で、演歌は一つもなし、歌謡曲やポップスだけがとりあげられています。それもけっこう古いものっていうか1970年代の曲が中心なんですね。『VI』は和訳洋楽オールディーズ集です。

 

シリーズ・トータルで全72曲5時間2分。じっくり聴いて、なかでも秀逸だと個人的に思えるものだけ23曲を抜き出してプレイリストにしておいたのがいちばん上のSpotifyリンク。かなりしぼったつもりですが、それでも一時間半を超えています。まずまずのセレクションができたんじゃないでしょうか。

 

むしろ冬美カヴァーでこそ知られるようになった「また君に恋してる」(ビリー・バンバン)とかもありますが、オリジナルから有名なスタンダード・ソングが多いです。「あの日にかえりたい」(荒井由美)、「安奈」(甲斐バンド)、「哀愁のカサブランカ」(郷ひろみ)、「オリビアを聴きながら」(杏里)、「精霊流し」(グレープ)などなど。

 

それら以外だって、みなさんどこかで聴きおぼえがあるだろうというものばかりで、あたかも日本歌謡史総まくりみたいな面だってある冬美のこの『Love Songs』シリーズ。特筆すべきはアレンジ/プロデュース・ワークと冬美のヴォーカル・スタイルです。

 

この手の古い歌謡曲やオールディーズばかりを選曲したということは、どうもCD購買層を50代以上〜還暦前後の世代と想定して、そこにフォーカスしたんだろうというプロデュース意図を感じますが、どの曲もアレンジをオリジナルとは大きく変えてあります。

 

アダルト・オリエンティッド歌謡曲とでもいうような、しっとり落ち着いたおだやかなリズムとサウンドを軸に、ジャジーなムード満点でふんわりとくるんでいるんですよね。調べてもアレンジャーがだれだったのか出てこないんですが(CD買えば書いてある?)、シリーズ・トータルを一人で手がけたのかもしれない?という統一感があります。

 

メイン・ターゲットを高年層にしぼったことで、曲のアレンジもそんなリスナー向けのおだやかな大人のサウンドでキメているということなんですが、冬美のヴォーカルにもそんなプロデュース意図が伝えられたに違いなく、本来領域である演歌を歌うときとはかなり様子が違います。

 

コブシもヴィブラートも派手な声の出しかたもすべて消し、ナチュラル&スムースな発声とストレートな歌唱法に冬美は徹しています。それが大成功していると思うんですよね。従来的な有名歌謡曲にあたらしい相貌を与えていると言えます。

 

選曲のよさと意外さ、ジャジーでおだやかでまろやかなアレンジ・ワークの徹底、抑制の効いたヴォーカル・スタイルのあざやかさ 〜〜 これら三位一体で、冬美の『Love Songs』シリーズはもはや過去のものだった古い歌謡曲・流行歌を21世紀にみごとに蘇らせていると言えるでしょう。

 

同じ冬美の『ENKA』シリーズ(2016〜18)や徳永英明の『VOCALIST』シリーズ(2005〜15)をてがけたアレンジャー坂本昌之の仕事に共通するスタイルを感じるんですが、どうも坂本ではないみたいで、だれがアレンジャーだったのか、ほんとうに知りたいです。

 

いずれにせよ、ここ10年くらいのポップスではこういったサウンドとヴォーカルがメイン・スタイルになってきているのは間違いありません。

 

(written 2021.11.20)

2022/02/22

ぼくにとってはこれが最高の「ハウ・ロング・ブルーズ」 〜 ダン・ピケット


(4 min read)

 

Dan Pickett / Baby How Long
https://www.youtube.com/watch?v=TYLyQFeUWDg

 

知るひとぞ知るといった存在の米カントリー・ブルーズ・ミュージシャン、ダン・ピケット。第二次大戦後の1949年にフィラデルフィアのゴッサム・レーベルに録音した十数曲がすべてで、それ以外どんな人物だったのかもまったく謎。

 

ダン・ピケットについては、以前も一度書きましたね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-f412.html

 

フィラデルフィアの会社に録音したといっても長旅の結果であったに違いなく、残された音源を聴けばあきらかに南部のギター弾き語りカントリー・ブルーズ・ミュージシャンであったとわかります。ミシシッピ・デルタ・ブルーズの影響も濃いです。

 

ダン・ピケットが残した録音のうちぼくがこよなく愛するのが、どんなアルバムでも1曲目に来る「ベイビー・ハウ・ロング」。曲題だけでもわかりますが、かのリロイ・カー最大の代表曲「ハウ・ロング・ブルーズ」のカヴァーです。この曲のことがそもそも大好きですが、ダン・ピケットのヴァージョンはといえば、こ〜りゃもう至高のものとしかぼくには思えないわけです。

 

これが収録されたPヴァイン盤『ロンサム・スライド・ギター・ブルース』CD発売が1991年。90年代に山ほど出た古いブルーズ音源リイシューものの一環で、ぼくはこれを店頭で見かけるまでダン・ピケットなんて名前すら聞いたことありませんでした。

 

でも雰囲気のあるジャケットとアルバム題に惹かれたんですよね。それでなんとなくの直感みたいなものでレジへ持っていったと思います。自宅へ帰って聴いてみて、1曲目の「ベイビー・ハウ・ロング」に強い衝撃を受けました。こんなに魅力的な曲があるのか?こんなに沁みるブルーズ・ギター&シンガーがいるのか?と。

 

間違いありませんが、このとき1991年が、リロイ・カーのこの有名曲を知った最初でした。ひょっとしたらリロイ・カーの名前すらも知らなかったし、だからこの曲に星数ほどのカヴァー・ヴァージョンがあることなんてつゆ知らず。でもそれらを知ったいまでも、このダン・ピケットの「ベイビー・ハウ・ロング」こそ、ぼくにとっては最高のヴァージョンだと思えてなりません。

 

つまり、シティ・ブルーズの代表的名曲であるリロイ・カーの「ハウ・ロング・ブルーズ」に、南部カントリー・ブルーズとして出会ったのだということです、ぼくは最初。

 

ザクザクとギターで刻むビート感はまさしく南部カントリー・ブルーズのもので、それがあまりにもチャーミング。歌うがごときスライド・プレイもいいですよね。ダンはときおり歌のフレーズ末尾を一部歌い切らず、そのまますっとスライド・ギターに置き換えているパートもあります。

 

また、この塩辛いヴォーカルがいいんですよね。歌い出しの「ナウ、ベイビー・ハウ・ロング/ア〜、ツッ、ハウ・ロング」のパート、ここだけでもう降参です。特に2節目の音程を独自に装飾してマイナー調に歌うところ、胸をグッとつかまれてしまいます。

 

むずかしいことはなにもやっていない、ギター・ビートとスライドでの繊細な歌い、そしてこのヴォーカルと、たったそれだけでこれだけの小宇宙を創造してしまうあたりといい、素材は超有名ブルーズ・スタンダードだけどダン・ピケットにしかできないオリジナルみたいに仕上げているところといい、ぼくにとってこれ以上のカントリー・ブルーズはありません。

 

(written 2021.8.20)

2022/02/21

2022年2月19日の会話より

(8 sec read)

 

Facebookメッセンジャーで。相手はプリンスが好きな美容室経営の友人スタイリスト。

 

(written 2022.2.19)

2022/02/20

心おだやかに 〜 比類なきルーマーの『ナッシュヴィル・ティアーズ』


(3 min read)

 

Rumer / Nashville Tears
https://open.spotify.com/album/14rdSyKf6e1XzE157DlHyo?si=mFSijf_FRPW7ixQxZlyFXg

 

大好きルーマーの2020年作『ナッシュヴィル・ティアーズ』のことは、その年にすぐ聴いて感想を書きブログにも上げました。カレン・カーペンターとかノラ・ジョーンズとかのファンでしたら、ルーマーも一聴の価値ありですよ。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2020/10/post-4b7b3d.html

 

この『ナッシュヴィル・ティアーズ』を、近ごろまたふたたびどんどん聴きなおすようになっています。リリース当時いいねと思ってかなり聴きましたが、また違った意味でよりいっそう沁みるようになってきているんです。

 

きっかけは正月にレトロ・ポップスの記事とオーガニック・ミュージックの記事を書いたこと。そういう方向を自分で明確に意識するようになってみると、ルーマーは、もちろん前からそんな趣向がありはしたものの『ナッシュヴィル・ティアーズ』はこれまたいっそうそうじゃないかと強く感じるようになりました。

 

くわえて大きなことだったのは、3曲目「オクラホマ・ストレイ」が傷を負った野良猫と心を通いあわせる人間とのつらく悲しい出会いと別れのストーリーだと知ったこと。ある晩なんか聴きながら泣いちゃいました。ほんとうにハートブレイキングな一曲。

 

淡々と静かに弾かれるアクースティック・ギターだけの伴奏ではじまって、しばらくするとペダル・スティールとかフィドルとか(薄いドラムスとか)もからみはじめるんですけど、その上でやさしくそっとおいていくように、静かにことばをつづっていくルーマーのヴォーカルによって、悲痛がいっそう胸に迫ってきます。

 

続く4「ブリスルコーン・パイン」の切な系メロディも、この歌手の端正で美しい声で歌われてこそ沁みるし、15「ハーフ・ザ・ムーン」出だしのアクギ・カッティングとマンドリンのからみの美しさとか、16「ネヴァー・アライヴ」はピアノ一台だけの伴奏でたたずんでいるおだやかな様子とか。

 

アルバム全編とことん<オーガニック>ということにこだわったサウンド・メイクも、いまのこの2020年代にこれ以上のプロデュースとサウンド・メイクはないなぁと言い切りたいほどすばらしい絶品です。

 

電子楽器はいっさいなし、電気だってベースと(一部の)ギターだけで、それも控えめ。徹底的にアクースティックな人力生演奏で組み立てたのは、とりあげられているのがすべてヒュー・プレストウッドというポップ・カントリー系ソングライターのブックであるということも関係あるんでしょうし、ルーマーの資質も考慮に入れてのことでしょう。

 

仕上がりは決してカントリーっぽいサウンドにはならず、しっとりと湿っていてしかもやわらかくおだやかな情緒を感じさせるルーマーのこの比類なき美声こそ、人間味あふれるプレストウッドの世界を歌うにふさわしい最高のものだと実感します。

 

(written 2022.1.16)

2022/02/19

オギとハギ

(3 min read)

 

荻原さんブログ → https://bunboni58.blog.ss-blog.jp
萩原さんブログ → https://kenta45rpm.com

 

音楽関係で、bunboniこと荻原和也さんと、萩原健太さんのそれぞれブログは個人的に最大の情報源なんですけど、お名前を書くときに、ぼくは漢字の「荻」(オギ)と「萩」(ハギ)という二つの字体を区別できない人間なんですね。

 

書くときだけじゃなく読むときだって、どっちの漢字が来てもあれっオギだっけ?ハギだっけ?ってわからなくなってしまうっていう。

 

ある種のビョ〜キかと思います。

 

この二つの漢字の違いを(デジタル・ディバイス普及前に)ちゃんと学ばないままこの歳まで来てしまったからなんでしょうねえ。よく似ていてまぎらわしいといえばそうじゃないかとは思うんですが、お名前の漢字表記を間違えるなんて、やっぱりやっちゃいけないことですから。

 

といってもMacのかな漢字変換システムに任せてあるんで、おぎわら/はぎわらでスペース・キーを打って出てきたのをそのまま使っているだけなんですが、その際にじっくり確認しなおさないのがよくないんですよねえ。パッと見、一瞬ではわかりにくいような感じですからなおさら。ゴメンナサイ。

 

オギワラさんに一度指摘されたばかりか、ハギワラさんにも、直の指摘じゃなかったんですけど一、二度ご自身のブログ記事中カナ書きで「ハギワラです、よろしく」みたいにおっしゃってあったのは、ひょっとしてそういう意味だったのかも?という気がして、心配で。間違えたこと、ありましたっけ?

 

実を言いますと、ぼくもよく名前の漢字表記を間違えられる人間で、「戸嶋」(としま)なんですけど、頻繁に「戸島さん」「豊島さん」と書かれます。以前はそのたびに修正していましたが、多くてキリがないし、ぼくを呼んでくれているには違いないと思うから、あまり言いにくくなって、最近は。読みだって「とじま」「こじま」と言われることがかなりあります。

 

書きでも読みでも名前を間違えられるとやっぱり気分よくないっていうのをだれより自分自身が長年経験し続けてきているというのに、荻原/萩原を間違えちゃいけませんよね。コツとしては、くさかんむりの下が「あき」なのがハギってことですか。オギはけものへん。まぁそれしか違わないわけですが。

 

実際問題、書くときはパソコンやスマホの変換機能に任せてあります。だからシステムの辞書が間違っていなければ出てくる文字は正しいはずと思いますが(じゃあなぜ以前は一度間違えた?)、テキスト・アプリに表示された漢字をしっかり確認しなおす習慣をつけることにします。

 

荻原さん、萩原さん、今後ともよろしくお願いします。

 

(written 2022.2.5)

2022/02/18

カムカム効果?のサッチモ人気

(5 min read)

 

Best of Satchmo 1925-1933
https://open.spotify.com/playlist/0hnTD1H0miwSU55zDb2ovJ?si=b77e8aea8d9a4038

 

なんか、ブログのアクセス解析をみていると、最近サッチモことルイ・アームストロングについて書いた記事がどんどん読まれるようになっています。アメリカは南部ニュー・オーリンズ生まれの黒人ジャズ・トランペッター&シンガーで、1971年没。

 

それも第二次大戦後に録音したアルバムの話題じゃなくて、1920〜30年代のオーケー・レーベルに吹き込んだ古典的録音について書いたものに人気が集中していて、こりゃなんじゃろう?いくらレトロ・ブームだからって、なんかおかしいぞと。

 

理由がちっともわからずにただ不思議がっていたんですけど、ついこないだ、NHK朝の連続ドラマ『カムカムエブリバディ』のことを知りました。どうやらそれがサッチモ再注目の原因みたいです。

 

聞きかじった話じゃ、そのドラマのおかげでサッチモのベスト盤CDがジャズ・チャートを上昇してもいるそうです。こんなネット記事も見つけちゃいました↓
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022021400786&g=soc

 

へえ〜、これだったらね、すぐには気づくわけないですよ。なんたってぼくんちにはテレビジョン受像機がないんですから。音楽だけに全神経を集中したい、そういう人生になったと思ったから、2016年に処分してNHKの受信契約も解除しました。テレビ番組の話題を遠ざける日々ですからね。

 

そんなぼくでも、サッチモやその音楽が再注目され人気もあがっているとなれば気になってしかたがないので、ネットで朝ドラ『カムカムエブリバディ』のことをちょちょっと調べてみました。ジャズに関係したその番組内容はみなさんご存知のようなので、ここで記す必要はありません。サッチモは深津絵里の役どころ「るい」(!)の愛称みたい。

 

それで、2015年にはじめたようなブログで、こんだけサッチモの古い録音について書きまくってきた人間って、たぶんぼくだけじゃないかと思いますよ。それくらいサッチモの音楽がいまでも好きで好きでたまらない、時代の流行とか(テレビ・ドラマのおかげとかなにかで)ホットな話題だとか、いっさい関係なく愛聴し続けてきました。

 

ぼくが書いたサッチモ記事、いちばん最初はこれ↓

 

・サッチモの最高傑作は「ディア・オールド・サウスランド」だ
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-946f.html

 

実はこれが最もアクセス急増中で、カムカム以前にはまったくといっていいほど読まれていなかったんですけれども。1930年録音という古い一曲を話題にしたものですからね。でもホント美しく、感動的なので、ぜひちょっと聴いてみてください。
https://www.youtube.com/watch?v=MPjQJ9lgG98

 

そのほか主だったと自分で思えアクセスも増えているものをちょっとだけご紹介すると…

 

・サッチモの古い録音を聴いてほしい
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/08/post-13e085.html

 

・サッチモ 1925~27
水瀬いのり ファンクラブセット

 

・サッチモ 1928
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/1928-f5ad.html

 

・サッチモ 1929 - 33
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2017/06/1929---33-d736.html

 

特に音楽内容には踏み込まず、ただただサッチモを聴きながら生前の写真を眺めているだけで気分がいい、微笑ましい、それくらい好きだっていうのが以下の記事↓

 

・サッチモの写真を見るのが好き
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/01/post-c658.html

 

これと関連しますが、サッチモの音楽に対する取り組みかたとはどういうものだったのか、ということをふりかえって考えて書いたのが以下↓。とりあげているアルバムは戦後録音のものですが、このひとの姿勢は1923年のデビューからずっと一貫していました。

 

・没後半世紀目に考える、サッチモとジャズ・エンターテイメント
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/08/post-958354.html

 

これら以外にもたくさんあるんで、お時間とお気持ちのあるかたは検索してみてください。

 

サッチモはジャズの全歴史上最もビッグな存在であり、史上最も強い音楽的影響を後続のミュージシャンたちにおよぼしました。トランペットやヴォーカルといった楽器にかぎらずです。ジャズという枠をも超えて敬愛を集めた存在で、20世紀以後のアメリカン・ミュージックでは最大のイコンなんですね。

 

なにぶん録音も音楽スタイルも古いため、いまではかえりみられることが少なくなり、音楽的にどう偉大だったのかということを熱く語るひともほとんどいなくなりました。でも伝え継いでいかなくちゃ。なんたって聴けば文句なしに楽しいんですから。

 

テレビ・ドラマ『カムカムエブリバディ』がそのきっかけをつくってくれたのであれば、そして2022年という時代にサッチモがふたたび注目され、ひょっとしてその古典的録音がまた聴かれるようになっているのであれば、これ以上のよろこびはありません。

 

(written 2022.2.17)

2022/02/17

バラディアーとしてのマイルズの真価 〜「I Fall in Love Too Easily」


(4 min read)

 

Miles Davis / I Fall in Love Too Easily
https://open.spotify.com/track/32YZWXNhOd70F19BZSU73w?si=d0375e814d0d4496

 

同じ曲の話をなんどもしてごめんなさい、でも昨晩22時半すぎ、なにげなく流していたプレイリストでふと耳に入ってきたマイルズ・デイヴィスの「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イーズリー」で、思わず泣いちゃった。

 

マイルズ1963年のアルバム『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』の3曲目なんですけど、この作品はウィントン・ケリー、ジミー・コブらがいたレギュラー・バンドの解散後、次のニュー・バンドを結成するまでの端境期に録音されたものです。

 

正確には二種類のセッションで構成されていて、2、4、6曲目が新しく結成したばかりのニュー・クインテット(ジョージ・コールマン、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズ)による初録音。それ以外の三曲はその直前にロス・アンジェルスでセッション・ミュージシャンを起用して誕生しました。

 

ハービーらで構成されるニュー・クインテットは、その後1968年まで目覚ましい大活躍をすることとなり、マイルズの音楽生涯を通しても一つのピークだったといえるほどなので、だから63年の『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』はその最初の入口にあるものと捉えられることがほとんど。

 

ですが、ぼくの見方は違います。このアルバムの聴きどころは、ワン・ホーン編成によるLA録音のバラード三曲。ハーマン・ミュートでどこまでも切なくリリカルに吹くマイルズの持ち味が存分に発揮されていると思うんですよね。

 

音楽的なシャープさ、新時代を先取りする気概、溌剌としたバンドの躍動感などはまったくないそれら三曲こそ、だからゆえにかえって、バラード吹奏におけるマイルズのチャームを理解するのにもってこいですし、ほんとうに美しいとぼくは心から感動します。

 

これは40年以上前からずっといだき続けている実感なんですけど、低評価ぶりと、ニュー・クインテットによる若々しいみずみずしさが聴ける三曲との落差が大きいので、あまりおおっぴらに公言できないままのマイルズ・リスナー人生でした。

 

とはいえ過去にこのブログで一度だけ記事にしたことはありますけれど。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/la-15b3.html

 

なかでもA面ラストだった「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イーズリー」でのマイルズの切なさ極まる演奏ぶりは絶品。伴奏(ヴィクター・フェルドマン、ロン・カーター、フランク・バトラー)も肝所をおさえた職人芸で、ため息が出ます。

 

この曲はコロンビア時代の1945年にフランク・シナトラが歌ったのが初演で、シナトラ好きだったマイルズは、それが理由でとりあげたに違いありません。線の細い頼りなさげで女性的なハーマン・ミューティッド・トランペットのサウンドは、シナトラの味とはだいぶ違いますね。

 

マイルズの「アイ・フォール・イン・ラヴ・トゥー・イーズリー」、四人でどこまでも淡々と静かにおだやかにこの切ないメロディをつづっているようでいて、しかしそれでもやや熱を帯びているかと思える瞬間もあり、内に秘めた爆出しそうな孤独と哀感を音楽的にきれいに蒸化していく様子に、バラディアーとしてのマイルズの真価を聴く思いです。

 

みずみずしい三曲に比べ、それらには表現が円熟しきった退廃すら感じられ、それも理由でぼくはずっと愛してきました。

 

(written 2022.2.16)

2022/02/16

アンゴラとブラジルをつなぐ打楽器ハーモニー 〜 ルシア・ジ・カルヴァーリョ


(2 min read)

 

Lúcia de Carvalho / Pwanga
https://open.spotify.com/album/2xNQJC823l3SCJbVxL2Dt3?si=atTnWFrcQCy2rdpF50Bpng

 

ルシア・ジ・カルヴァーリョはアンゴラのルアンダ生まれ、フランスを拠点にずっと活動してきた歌手ですね。最新作『Pwanga』(2022)は音楽的にブラジリアンといっていい内容で、そもそもルシアが在籍していたフランスのグループ、ソン・ブラジルはその名のとおりブラジル音楽をやっていたそう。

 

新作にはシコ・セザール、ゼー・ルイス・ナシメント(バイーア出身のパーカッション奏者)、アナ・トレア(サンパウロのシンガー)いったブラジル勢も参加していて、+アンゴラ人ミュージシャンといった編成みたいです。

 

バイーア色が濃いかなと感じるんですが、派手な打楽器群の乱打を中心にビートの効いたアフリカン・ルーツな音楽をやっています。っていうかそもそもアフリカ人なわけですけど、ルシアはブラジルをいったん経由して、それを足がかりにアフリカを眺望するといった視点を持っているのが特徴。

 

そんな傾向は1曲目から爆発しています。2曲目はちょぴりアラブ音楽ふうな旋律とこぶしまわしが聴けて、こりゃなんじゃろう?と思いますけど、基底部のビート感はまぎれもなくアフロ・ブラジリアンです。

 

はじめて聴いたルシアのヴォーカルには溌剌としたはじける元気のよさがあります。それでもキャリアなりの落ち着きも感じられ、いまいちばんいい時期なのかもしれませんね。強い発声でパンチの効いたノビのある歌をくりだす歌手で、こぶしもまわっています。

 

ヨーロッパでマルチ・カルチュラルな仲間たちと活動を続けながらブラジル音楽をやって、そのなかにあるアフリカ要素をとりだし強調することで、自身のルーツをみつめディグし、アイデンティティを確立しているような音楽だと思えます。

 

(written 2022.2.13)

2022/02/15

ブラジリアン・ギターリスト+ラージ・アンサンブル 〜 ロメーロ・ルバンボ&ラファエル・ピコロット


(2 min read)

 

Romero Lubambo & Rafael Piccolotto Chamber Orchestra / Live at Dizzy’s
https://open.spotify.com/album/20q3L5EuQaKVBcQbiujlfS?si=ZILxWZm7TsCujSHtTKqmTQ

 

リオ・デ・ジャネイロ出身、ブラジル人ジャズ・ギターリストのロメーロ・ルバンボが、同じくブラジル出身在NYの作編曲家ラファエル・ピコロットの編曲・指揮するラージ・アンサンブルと共演した北米ニュー・ヨーク・ライヴ『ライヴ・アット・ディジーズ』(2021)が、ちょっといい。

 

アクースティック・ギターリストが主人公であるとはいえ、そんな目立つようにソロなどたくさん弾いているという印象は薄く、むしろアンサンブル主体で演奏が進行します。どっちかというとラファエルの仕事を聴かせるというアルバムなんでしょうか。

 

それでもそこそこギター・ソロもありますけどね。サンバやボサ・ノーヴァ、特に後者のスタイルでアレンジされているものが多く、曲はオリジナル中心ですが、なかにはややびっくり「ルート 66」みたいなスタンダードもあったりして。それには女声ヴォーカリストが参加しています。やはりボッサ・ジャズといった趣きで、ロメーロのソロもあります。

 

上でも言いましたが、弾きまくりギターをフィーチャーしているというよりも、アンサンブルのなかのパーツの一個としてうまくはめ込んでいるプロデュースぶりで、その点、かつてのウェス・モンゴメリーを想起させる内容ですね。ドン・セベスキーやクラウス・オガーマンとやったやつ。

 

実際ラファエルのアレンジも迫力とスケールがありながらきめ細かくて、そのなかを縫うように走るロメーロ(やアコーディオンやサックスなど)のソロもスケールが大きく、聴いていてとても楽しいし心地いい。8「Paquito in Bremen」みたいな優雅なバラードで聴かせるやわらかくたおやかな味も絶品です。

 

(written 2022.2.7)

2022/02/14

コロナ時代だからこその加那 〜 平田まりな


(3 min read)

 

平田まりな / 加那 〜 古典コンテンポラリー すべての愛しきに向けて〜
https://open.spotify.com/album/4Z4nFTdD4ydYsexei546AI?si=eH4VpByvReKsdNUHCjE7Dg

 

三線で弾き語る奄美の島唄者、平田まりなの新作アルバムが出ました。『加那 〜 古典コンテンポラリー すべての愛しきに向けて〜』(2022)。まりなについては、以前2019年のデビュー作をとりあげて書いたことがありましたね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-eac552.html

 

そもそもまりなにはひめまりという二人組ユニットで出会ったんですが、ひめまりのほうはニュースを聞かなくなったので、活動休止中ということなんでしょうか。それでもまりな単独で二作目が出て順調に活動していて、うれしいです。↓写真はひめまり。

音楽家ですからね、御多分に洩れずコロナ禍で苦労していることはふだんのソーシャル・メディア投稿からもうかがえて、今回の『加那』もCDを全国的に展開すべくの対人販促イベントなどほぼできず。それでも一作目『跡(アシアト)』とのコロナ時代らしい大きな違いはSpotifyなどサブスクで聴けるということです。

 

さらに、一人弾き語りだけで構成されていた前作に比し、今回は祖母の松山美枝子がお囃子でほぼ全曲に参加。そうじゃないラスト7曲目では従姉妹の西平せれながハンド・パンを演奏しているっていう、奄美島唄でハンド・パンが聴けるなんて、思っていなかったです。

 

そのハンド・パンが聴こえる7曲目「行きゅんにゃ加那」ですけど、まずはハンド・パンだけの伴奏に乗りまりなが歌いはじめます。ヴォーカル・スタイルは三線弾き語りのときとなにも変わらないとはいえ、こんな奄美島唄はまったく聴いたことないぞと思う斬新なサウンドスケープで、引き込まれます。途中から三線もくわわると、ますますいい香り。

 

これ以外の六曲は従来的な奄美民謡の趣きですが、今回すべての曲題末尾に「加那」ということばが付いています。アルバム題にもなっているわけですが、これは「愛しい人、好きな人」を意味する奄美語だそう。コロナ時代だからこそ自分の歌を届けたいというまりなの気持ちが伝わってきますよね。

 

松山美枝子が参加していることでサウンドにふくらみとひろがりが出ているし、まりな自身の三線と歌は以前と変わらないシャープさと丸み。いっそう強靭さを増したんじゃないかとも思えるトーンで、声の色には独特の憂いや哀感を保ちながらも、三線の音色はどこまでも鋭敏。

 

ファミリアーな親近感とか落ち着きも聴けるなと感じるのは、一族三名でつくりあげた音楽だということにくわえ、まりな自身の成長ということと、やっぱりこんな時代だからこそ歌で愛を届けたいという思いが結実したものでしょう。

 

(written 2022.2.12)

2022/02/13

そばに音楽があればいい


(6 min read)

 

たとえばマイルズ・デイヴィス。1975年夏の一時引退前はもちろんのこと81年の復帰後もしばらくのあいだ、コンサート・ステージで自分の順番じゃないあいだはバンドの演奏が進行中でもソデにひっこんで休憩しちゃうひとでした。

 

たぶんタバコ吸ったりボ〜ッとして、べつなことしたり、あるいはスタッフとしゃべったりもしていたかもしれませんが、そんなあいだもステージでバンド・メンバーがくりひろげている演奏はボスとしてちゃんと聴いてチェックしていて、終演後に気になるメンバーを呼んであれこれ指導していたんです。

 

もちろん自分が演奏しているあいだとか、あるいはスタジオでのレコーディング・セッション中とか、よそ見しながらやっていたわけじゃなかったんでしょうけど、音楽は「音」で(聴力障害がなければ)耳で聴くものですから、だから聴いているあいだ耳だけ集中して、あとは目でなにを眺めていても、手で作業していても、べつにいいんじゃないでしょうか。

 

耳さえ研ぎ澄まされていればですね。毎朝7時前に起きて毎夜24時すぎに寝るまでずっと音楽が止まらず鳴りっぱなしというぼくのばあいだと、その間、ごはんつくって食事したりトイレとかお風呂とか洗濯とか掃除とか、日常生活があります、当然。

 

手が空いてゆったりすわっていてもやっぱりネットでソーシャル・メディアのタイムラインを眺めていたり投稿したり、テキスト・アプリでブログ記事を書いたり、とにかくなにかしていますが、なにをしていても音楽はノン・ストップで流れています。だから、集中して聴いている時間とBGM的になっている時間とがありますね。

 

しかしBGM的なというか流し聴きになっているあいだも、耳は聴こえてくる音楽に集中していて、むろん水を使ったり火を使ったりすれば音が出ますから、重なって背後の音楽のほうはやや聴こえにくくなります。そんなときでも、ふと耳に入ってきた音にハッとする瞬間というのがあって、それをきっかけにアイデアがわき、まとまった文章をしあげることにつながったりも。

 

音楽キチガイというか音楽中毒者は、片時も音楽がない状態は耐えられないっていう人間でしょうから。ちょうど麻薬中毒者がその血中濃度が下がってくるとガマンできなくなってくるように、音楽が鳴っていない時間というのが考えられないっていう、そういうもんじゃないかと思います。

 

すくなくともぼくはそう。自宅にいてなにかしている最中にアルバムとかプレイリストの再生が不意に終わって無音楽になったら、とたんに不安になったりイライラしてしまいます。どんなときでも常に聴こえていてほしいから、実際そうしています。

 

するとですね、ディスクだと再生がいったんは終了する限界時間というのがありますよね。レコードだと片面30分未満くらい、CDならギリギリ詰め込んで最大80分。そこで裏返したり取り替えたりという作業が来ますけど、それがすぐにできない、手が離せない状況というのが日常生活にはそこそこあります。

 

もちろんサブスクだって、リピート再生や終了後に続けて関連曲を流す設定にしていないなら(ふだんぼくはしない)、短めのアルバムなどはそこで終わるから、また別のものをクリックする必要があります。ってことは本質的にディスクで聴くのもサブスクで聴くのも同じではあるんですが、ディスクだとリピート再生設定なんかはできませんよね。長尺のプレイリストを流しっぱなしにしておくということも、できない。

 

サブスクで途切れなく音楽を耳に入れていて、だからもちろん流し聴きの時間もあるけれど、毎日数時間はパソコン画面でSpotifyアプリで表示されるジャケット+トラックリストをジッと凝視したまま微塵も動かず、集中して聴いている時間もあります。パソコンが立ち上がっているけれど、SNSもWebブラウジングもなにもしないで、サブスクで音楽だけに集中して聴き込んでいる時間というのがですね、あります。

 

ディスクだって、パッケージを裏返して眺めたり、ブックレットなどを取り出してテキストを読んだり写真を楽しんだりなどしながら聴いているわけでしょう。ぼくはそうでしたけど、たぶんみんな同じなはず。それがいいんだ(音しかないサブスクに対する)フィジカルの利点だって、いまやみんな言っていますからね。

 

だから裏返せば、音しかないぶん、サブスクのほうが音楽(オーディオ・データ)だけにじっくり正対して向きあうにはいいのかも?というのも日々痛感していることです。

 

サブスクだと演奏パーソネルや各種情報、クレジット関係が(一部しか)わからない、ストーリーを語ったテキストも美麗な写真類も付属しないというのは、間違いなく大きなデメリットですけどね。そこはなんとかならないんですか?> SpotifyさんやAppleさん。

 

(written 2022.2.3)

2022/02/12

台湾発、かすかにレトロな新世代R&B 〜 ジュリア・ウー


(3 min read)

 

Julia Wu / 2622
https://open.spotify.com/album/4FsfJ4W3zxBFfkiBNUpdo6?si=NIWKUjxlTiWz4JnNlpe6vg

 

台湾的音楽のことをどんどん紹介している石井由紀子さんのnoteに出会ったきっかけは、ぼくがぞっこんのチェンチェン・ルー(魯千千、在NYCのブラック・ジャズ・ヴァイブラフォン奏者)について書いていたから。

 

それで石井さんをフォローするようになったんですが、昨年暮れごろ若手R&B歌手ジュリア・ウー(吳卓源)のことが紹介されてあったので、そのままアルバムをSpotifyでさがして聴き、うんこりゃいいねと納得しました。
https://note.com/yukiko928/n/nf10f819b15a1

 

中国は海南省生まれですが、すぐにオーストラリアへ家族で移住。米バークリー音楽大学を卒業し、2017年から台湾で活動しています。国籍はデビューのきっかけたるオーディションを受けたオーストラリアにあるみたい。日本人音楽家ともコラボ経験があるようですよ。

 

現時点での最新アルバム『2622』(2021)、ジャケットの感じはまるでロー・ファイ・ヒップ・ホップのそれですが、音楽的にはジュリアもまた新世代らしいエラ・メイとかH.E.R.などのオルタナティブR&Bの系列に連なる歌手に違いありません。

 

でも重く沈む感じはジュリアになく、ノリよく聴きやすいのが特徴で、さらにウィットニー・ヒューストンやマライア・キャリーといったクラシカルR&Bというか90年代フィールもかすかにあるのがぼく好み。特に『バタフライ』(97)あたりのマライアっぽいような。

 

アルバム『2622』は出だしからいいですが、特に好きだと感じるのは3曲目「paris」から。ミディアム・テンポのふわっとしたグルーヴがセクシーで、歌声もチャーミングだけど、なんたってトラック・メイクが最高ですよ。

 

そして4「better off without you」。これがぼく的には本アルバム中の白眉。台湾の人気ラッパー、瘦子E.SOとのコラボ・ナンバーで、パーティー・チューンふうなクラブ・ビート感が文句なしにカッコいい。90年代ふうのレトロなR&Bっぽいですが、確実に2021年のものといえる浮遊感もジュリアの発声にはあります。

 

感情の機微を表現するジュリアのデリケートなヴォーカル・マナーは、確実に21世紀的なソフィスティケイションに裏打ちされていて、たとえば8曲目「精神分裂」なんかを聴いても、新世代R&B歌手に違いないとわかるアンビエンスと重心の低さを持っているとわかります。

 

(written 2022.2.9)

2022/02/11

グナーワ&ジャズ・ハイブリッド 〜 メディ・ナスリ、オムリ・モール、カリム・ジアード


(3 min read)

 

Omri Mor, Mehdi Nassouli, Karim Ziad / Assala
https://open.spotify.com/album/0naKDiFvjhAcy1IWy2QiyS?si=wH2C8uSsQpqqfsEo5vE9BQ

 

lessthanpandaさんのMúsica Terraで知りました。
https://musica-terra.com/2021/07/24/omri-mor-mehdi-nassouli-karim-ziad-assala/

 

モロッコ人ゲンブリ奏者メディ・ナスリが中心になっているこのトリオになにか特定のバンド名みたいなものはないみたいで、ただ三人の名前を列挙して「オムリ・モール、メディ・ナスリ、カリム・ジアード」と書かれてあるだけ。

 

メディがゲンブリ&ヴォーカル、オムリ(イスラエル)がピアノ、カリム(アルジェリア)がドラムスという編成です。常時編成バンドというより、随時集まるプロジェクトみたいなものなんでしょう。

 

このプロジェクトは2019年ごろからはじまっていたらしく、ライヴ活動などはやってきていたらしいのですが、昨年それが一つのアルバム『Assala』(2021)に結実しました。これが、グナーワ、ジャズ両方に興味のある人間にはおもしろい内容です。

 

どの曲も、基本、メディの弾くゲンブリのベース・ライン反復を中心に組み立てられていて、そこはグナーワらしいマナー。同じくメディの歌声もグナーワを強烈に感じさせる質と旋律なのですが、ピアノとドラムスが入ってくると、その上にジャジーなハーモニーとリズムの多彩さが乗るといった具合です。

 

ジャズ成分を代表しているといえるのがオムリの弾くピアノ。このひとはイスラエルでは名の知れたジャズ・ピアニストです。グナーワというとそもそも和声的にはシンプルで、そういう部分じゃなくヒプノティックなワン・グルーヴの反復こそが魅力の音楽なんですが、アルバム『Assala』ではそこにポリフォニックなハーモニーが加味されています。

 

オムリのジャズ・ピアノはさほど冒険したりはしないスタイルで、典雅で端正。クラシックも学んできたことがよくわかるのがフレーズのはしばしに出ていて、かといって曲によっては後半部メディの弾くアップ・ビートなゲンブリ反復に乗って、熱く高揚したりもするんです。

 

そうしたヒート・アップするパートでは、ちょっとジャズ・ミュージックでは聴いたことのないトランシーさを感じさせたりもして、しかしグナーワそのものでもないし、まさしくグナーワ&ジャズ・ハイブリッドだよなあ、唯一無二の音楽だと感じさせるものがあります。

 

グナーワ・ミュージックの原初的な特質を失わないで、そのままうまくジャズでリハーモナイズした音楽といえる、ちょっと注目していい作品じゃないでしょうか。

 

(written 2022.1.18)

2022/02/10

音楽趣味は「役に立つ」?


(3 min read)

 

古文・漢文の学習が役に立つのか?ってことを言うひとがあるそうです。2022年の日本人が現代かな漢字まじり文を書くときに大いに役立つという実用面(特に作家、物書きなら)や日本語の成り立ちを理解できていないのはさておき、そもそも「役立つ」というモノサシでしかものごとの価値をはかれないなんて、貧弱な思想ですよねえ。

 

かりに役立つということだけに価値をおくとしたら、音楽趣味なんか一円にもなりませんから無価値です。意味のないことに日々情熱を費やしているわけで、なにをやっているのかわかりませんね。音楽なんかに興味のないみなさんからしたら、なにをそんな血道を上げているのか、さっぱり理解できないでしょう。

 

音楽を追求したり、あるいは21世紀の現代に古典ラテン語(古代ローマの公用語)を学んだりするのでも、もちろんそれぞれ個々人の好き勝手であって、だれかに負担や迷惑をかけないのであれば、放っておいてくれと言いたい。

 

ただひたすら楽しく、おもしろくてたまらないから熱中しているだけで、それじゃ悪いのかと。役に立つとか(つまりお金になるとか)いうことはまったく考えたこともないですし、そこに価値をおいていません。美しい音楽を聴けば楽しいし癒しになる、だから次々と聴くだけ。

 

より美しい音楽はないか、世のなかどこに自分の知らない音楽美があるかわからないぞと思うから、どんどんさがして聴きまくるのをやめられないんです。原動力はとにかく「楽しい」「なんかおもしろそう」ということ。これに尽きます。きれいな人や景色を見て、あっいいねこれ、と感じるのは多くのみなさんに理解してもらえるような気がしますけど、それと根っこは同じです。

 

むろんこの世には音楽なんか聴かない、むしろ積極的に嫌いであるというひともたくさんいます。そうしたみなさんに向けて「この曲はいいからぜひちょっと聴いてみて」ということはもちろんしませんよ。いや、音楽愛好家向けにだって、みんなそれぞれ好みが違うから、押し付けにならぬようやっぱりそこは慎重じゃないとね。

 

ですから、あくまで自分のなかで、個人的音楽美意識の範疇で、いいぞと思えるもの、フィットするものを追いかけて、見つければうれしくてどんどん聴き、っていう反復・連続でいままで約60年の人生を送ってきました。充実していたと思います。

 

すくなくともぼくにとっては、美しく楽しい音楽を聴くことで精神的に安寧し、ひいては肉体の健康にも寄与していることなんで、その意味ではそりゃあ「役に立って」いますよ。これを理解できない他人に「そんなもんなにになる?」とか、とやかく言われる筋合いは一片もありません。

 

(written 2022.1.26)

2022/02/09

冬の夕暮れどきに 〜 原田知世「いちょう並木のセレナーデ」


(4 min read)

 

原田知世 / いちょう並木のセレナーデ
https://open.spotify.com/track/2pIjbgXMbJtaTvUAYo9dsi?si=a54e7427078247cd

 

原田知世2019年のアルバム『Candle Lights』9曲目に収録されている「いちょう並木のセレナーデ」がホントいい。この時期、真冬のちょうど日が暮れかかってきたような時間帯にでも聴くと、しんみり沁みてきて、心おだやかになります。

 

もちろん小沢健二のオリジナル(1994『LIFE』)ですが、でもオザケンで聴いてもあまりピンと来ないのに、知世カヴァーで聴くとこんなにもいいっていう、だからこれまたプロデュース&アレンジをやった伊藤ゴローの仕事がみごとだっていうことでしょう。

 

いい曲でも、だれが歌うか、どんなアレンジでやるか、によって生きたり死んだりすると思うんですよね。歌というものもまた、このひとっていう決定的表現者を得るということがあると思います。それではじめて生命を吹き込まれるんです。

 

知世&ゴロー・ヴァージョンの「いちょう並木のセレナーデ」、実は以前2016年の『恋愛小説2〜若葉のころ』の、それも初回限定盤だけの末尾に(ボーナス・トラックとして)収録されていました。それが初出で、ぼくはそれを買ったと思うんですが、Spotifyだとグレー・アウトしていて聴けなかったんですよね。

一つの新曲と三曲のリミックスをふくむバラード再録集である2019年の『Candle Lights』に入ったことで、その収録曲としてようやくサブスクでも聴けるようになり、同時に『恋愛小説2〜若葉のころ』のほうのトラックリストでも解禁されました。どっちで聴いても同じもの。

 

知世の「いちょう並木のセレナーデ」はスティール弦アクースティック・ギター一台だけの伴奏で歌われています。弾いているのがだれなのか、やっぱり伊藤ゴローか、『恋愛小説2』も『Candle Lights』も買ったはずのCDがどこにあるのやら、平積みカオス山脈のなかにまぎれこんでいますから、確認できません(公式HPに載せておいてほしい>ユニバーサルさん)。

 

でもそのアクギ一台だけの伴奏で静かにおだやかにしんみりとていねいに歌う知世のヴォーカルは極上の味わい。特にどうという工夫や技巧もこらさないというか、そもそもそんなもん持っていない歌手なわけですけど、そんなアマチュアっぽさというか、ナイーヴで素直なスタイルで映える曲というのが、こないだ書いた「新しいシャツ」(大貫妙子)であり、「いちょう並木のセレナーデ」ですよ。

 

(たぶんゴロー自身が弾いているんであろう)ギター伴奏だけにしたというプロデュースが曲と歌手の持ち味を最大に活かすことにつながっていて、そういった曲をうまく見つけて拾ってくるのも絶妙ですが、知世の持つ生来のヴォーカル資質がなんともいえないうまあじを聴かせています。

 

二人の別れの光景をふんわり淡々とふりかえっている内容の歌で、決して激しく鋭いトーンや濃い味はここになく、背伸びしない等身大で身近な空気感、さっぱりしたおだやか薄味な淡色系音楽のすばらしさが心の空腹に沁みわたり満たされていく思いです。

 

(written 2022.2.8)

2022/02/08

ブルキナ・ファソ人のやるしなやかなマンデ・グルーヴ 〜 カディ・ジャラ


(1 min read)

 

Kady Diarra / Burkina Hakili
https://open.spotify.com/album/4oIfYmKxHOKMpvWQfpBvJ7?si=HaNefj1yRImSk-gOJmYy8w

 

フランスで活動しているブルキナ・ファソ人歌手、カディ・ジャラの最新作『Burkina Hakili』(2021)がけっこういいですよね。カディはグリオの出身で、西アフリカのグリオ系ヴォーカルを聴き慣れている耳には、すぐそれとわかる声の持ち主です。

 

伴奏サウンドは、バラフォン、ンゴニ、ギター、パーカッションなどを中心に組み立てられていて、いかにも西アフリカ音楽といった趣き。しかもカディはブルキナ・ファソ人ながら、音楽的にはマンデ・ポップのひとです。それはアルバムを聴けば明瞭ですね。

 

アクースティックな楽器を中心に、適度に混ざるエレキ・ギターなども心地よく、粘性のあるグルーヴがしなやかで、その上で落ち着いたヴォーカルを聴かせるカディの歌いかたもしっかりしたキャリアを感じさせる落ち着きで、好印象。

 

曲の随所で決まるバンドの合奏リフというかキメが快感で、多彩なリズム感、コクのあるサウンド・アレンジのなかで躍動するカディの溌剌としたマンデ・グリオ声が最高です。西アフリカ・ポップスの王道に沿いながら、ロックのビートやサウンドも曲によってはとりいれて、特にラスト11曲目なんかはハード・チューンでしびれます。

 

(written 2022.1.17)

2022/02/07

現行デジタル・ラテン・ファンク最高峰 〜 シマファンク


(3 min read)

 

Cimafunk / El Alimento
https://open.spotify.com/album/4CFpePqmtCoYlsFwejCwwI?si=FGAM7ZqsS42pyc1Ybs8sYg

 

若手ラテン・ファンク最高峰、キューバのシマファンク(エリック・イグレシアス・ロドリゲス)の新作『El Alimente』(2021)がずいぶんいいですよね。ジョージ・クリントンが参加しているオープニング・トラックなんか、まるでPファンクみたいですよ。

 

『El Alimento』は二作目にあたるもので、2017年のデビュー作『Terapia』収録の「Me Voy」が大ヒットしたことで一躍シーンの表舞台に躍り出たのがシマファンク。このステージ・ネームはキューバ西部の街の逃亡奴隷(シマロン)からとったものみたい。自身もそれが出自なんだそう。

 

公式サイトがあるんですが、生年ふくめバイオやキャリア紹介などはいっさい載っていません。ネットで見つかる散発的な諸情報をつきあわせると、どうも2014年ごろからラテン音楽界で活動してきた人物じゃないかと思います。
https://cimafunk.com

 

ともあれアルバム『El Alimente』。多くがコンピューターのフル活用でできているように聴こえます。ファンクもラテンも人力演奏による汗くささが特徴だったように思いますから、ベーシック・トラックのほとんどを打ち込みでやるシマファンクの姿勢はやや特異ですよね。

 

そんなエレクトロ・ミュージックでありながら、いかにもラテン・ファンクだというだけあるプ〜ンと漂ってきそうな体臭みたいなもの、汗くささが存分に発揮されているのもシマファンクらしさ。コンピューター打ち込みでここまで人間味あふれるサウンドをつくれるのには感心します。

 

ジェイムズ・ブラウンが最大の影響源に聴こえますが、キューバ音楽にもとからそなわっていた洗練とファンクネスを煮詰めて抽出したようにも思え、その点ちょっとベニー・モレーっぽくもありますね。1970年代サルサの痕跡も鮮明です。

 

必要最小限の演奏ミュージシャンしか起用していないのに、大所帯でやるゴージャス感に満ちていて、まるでラメきらきらみたいなこのけばけばしい派手さはどうですか。ごった煮のカオス感もあるし、Pファンクなどが実現していたあの世界に濃厚なラテン性をたっぷりぶち込んだシマファンクのこの『El Alimente』、お好きなみなさんにはこれ以上ない一作でしょう。

 

(written 2022.1.6)

2022/02/06

泣きのショーロ新作 〜 ダニーロ・ブリート


(2 min read)

 

Danilo Brito, João Luiz / Esquina de São Paulo
https://open.spotify.com/album/5JadOZCR15rLNXMaMsBnkz?si=GcZmIgzkSDaGEoehGtUjWg

 

ブラジル出身、現在はアメリカ合衆国で活動するショーロ・バンドリン奏者、ダニーロ・ブリートの新作『Esquina de São Paulo』(2021)は、やはり同国に拠点をおくクラシック・ギターリスト、ジョアン・ルイースとのデュオ作。

 

ピシンギーニャ、ジャコー・ド・バンドリン、オルランド・シルヴェイラらの曲をとりあげつつ、自作も混ぜているダニーロ。端正で典雅なのもいいけれど、個人的にはしっとりした泣きの情緒を聴かせているものがもっと好きです。

 

たとえば2曲目のアルバム・タイトル・ナンバー。ダニーロの自作ですが、これこそショーロの真骨頂といえるサウダージをなんともいえないフィーリングで表現していて、それでいてしつこくなく、さわやかな優雅さもただよっているという、ホント、いいですねえ。

 

アルバムにはそうした泣きのエレガント・ショーロがけっこうありますよ。5、6、9曲目なんかはかなりはっきりしているし、4曲目だってちょっとそうかな。メロディをつづりながら、ごく微細な音のニュアンスの変化をピッキングでつけていくダニーロの技巧がさりげなく発揮されていて、感心します。

 

ギターのジョアン・ルイースはほぼ伴奏に徹していて、ダニーロが弾く歌心たっぷりのメロディにからむ対位ラインを効果的に奏でる役目。堅実に脇を固めていますね。全九曲のうち六曲がしっとり湿った情緒の泣きのショーロで、バンドリンの硬質な音色がかえっていっそう哀感をきわだたせているようで、すばらしい。

 

(written 2022.1.5)

2022/02/05

天才、坂本昌之アレンジの特徴


(50 sec read)

 

マイ・フェイバリット坂本昌之Works
https://open.spotify.com/playlist/2c7q477YpSoGMKP69kE5W8?si=5af08e9387cf4cdb

 

・ひたすらおだやか
・淡く薄味
・シルクのような肌心地
・細かな部分まで神経の行きとどいたデリカシー
・必然最小数の音だけ、ムダのない痩身サウンド

・アクースティック生演奏のオーガニック・サウンド
・自身の弾くピアノが軸
・リズム・セクション中心で、管弦は控えめ
・ほんのりラテン・シンコペイションを軽く効かせ
・フルート・アンサンブルの多用
・その他木管を使い、ブラスはほぼなし
・エレベとコントラバスを適宜使い分け

・オリジナルよりカヴァーで生きる
・1960〜80年代のいわゆる昭和歌謡への眼差し

・原田知世をプロデュースするときの伊藤ゴローとの共通性

 

(written 2022.1.24)

2022/02/04

坂本昌之アレンジの極意を、由紀さおり「ウナ・セラ・ディ東京」に聴く


(3 min read)

 

由紀さおり / ウナ・セラ・ディ東京
CHUMSステッカー

 

日本歌謡界の至宝アレンジャー、坂本昌之の最高傑作は、いまのところ由紀さおり『VOICE II』(2015)2曲目の「ウナ・セラ・ディ東京」に違いありません(私見)。岩谷時子と宮川泰が書きザ・ピーナッツが1964年に歌ったのが初演。

 

坂本+さおりヴァージョンの「ウナ・セラ・ディ東京」は、ゆったりしたテンポのボレーロ・ビートに乗るオクターヴ奏法のギター・イントロではじまります。コントラバスによるオブリガートがややシンコペイトしているのが印象的。リズムは主にコンガ。うっすらドラムスとピアノ。

 

ギターとピアノのユニゾンによる短い無伴奏デュオ・インタールードに続きさおりのヴォーカル・パートにくると、ピアノを残しほかの楽器がさっとはけます。ピアノ独奏で八小節だけ静かに歌われると、今度はピアノとベースのユニゾン・リフが入りアンサンブルを導くという絶妙な出し入れ。

 

続く八小節のAメロを歌い終わり、軽い四連符を叩くリフに続いてサビに入ると、おそらくさおりの多重録音によるハモリ・ヴォーカルになっているのもみごとにきれい。その「あのひとはもう、わたしのことを、忘れたかしら、とてもさみしい」の終わりでパッと伴奏が全休止したその刹那、コンガ・ロール、続いてアンサンブルによるやや強め三連符バン、バン、バン。

 

サビでは全体的にハモリ・ヴォーカルですが、その終盤の伴奏が止む「とても〜、さみしい」部だけソロになっているのもデリケートな押し引きですね。続くコーラス・ラストの八小節でだけバック・コーラス(も多重録音と思われる)が仄かな色どりを添えています。

 

このあたりまでのシルク・タッチなサウンド・メイクとヴォーカルで、聴き手はもうすっかり溶けてしまいます。間奏のギター・ソロもイントロと同じくオクターヴ奏法でやわらかく。

 

やはり四連符リフに続きそのまま2コーラス目はサビから入り、1コーラス目と同じパターンをなぞり、ラスト八小節(ピアノ・オブリが洒落ている)最終部の「ウナ・セラ・ディ東京」を二回リピート。アウトロはやはりオクターヴ奏法ギター。

 

使われている楽器はピアノ、ギター、ベース、ドラムス、コンガ。これだけ。ストリングスもホーンズもなし。必要最小編成によるミニマム・サウンドのデリケートなかけひきで最大の効果を生む、坂本昌之マジックがここにあります。

 

(written 2022.1.24)

2022/02/03

ヘッドフォンもワイアレスで


(5 min read)

 

上の写真はぼくが使うときに使っている音楽用ヘッドフォン。一人暮らしなので、集合住宅とはいえ99%はスピーカーで鳴らしていますが、自室でも(早朝や深夜帯など)ヘッドフォンで聴くことがあります。

 

外出時にカフェなどでゆっくりしながら音楽を聴く際はいうまでもなくヘッドフォンかイヤフォンを使うわけですが、最近はぼくもBluetooth接続のワイアレスものしか使わなくなりました。

 

ヘッドフォンやイヤフォン(スピーカーもそうだけど)は、近年のBluetooth技術普及後すっかりケーブルなしのワイアレスものが定着した感がありますよね。ここ数年ほどでしょうか。

 

(音楽のプロやオーディオ・マニアを除く)一般ユーザーのあいだでは、もはやヘッドフォン/イヤフォンといえばワイアレスしかありえない、という感じにまでなってきているような気がしますが、もちろんそれら本来はぜんぶワイアードなものでした。ケーブル長によって行動範囲におのずと制限ができてしまうので、装着して聴きながら部屋中動くということはできませんでしたよね。

 

もちろんいまでも音質面を考えたらワイアード・ヘッドフォンのほうがいいのです。けれど、すこしの音質向上なんかは関係ないやと思っているぼくは、メディアのタイプ、機器の種類によって音楽の受けとめや感動が変わるということはないなあと実感していますから。

 

そんなわけで自由に動きまわれるワイアレス・ヘッドフォンが好きなんですが、ぼくがワイアレス・ヘッドフォンをいちばん最初に使いはじめたのは1990年代後半のことでした。当時はBluetoothもAir Playもなく、無線で音を飛ばすのに赤外線通信を使っていました。

 

ストリーミング・サービスなんかはいうにおよばず、パソコンで使うiTunesアプリすらまだ登場していない時期ですから、音楽を聴くといえばCDをオーディオ装置で鳴らすしかありませんでしたが、アンプのAUX出力端子のところに接続する母機があったんですよ。それをアンプの上か横あたりに置き、そこから赤外線でデータを子機ヘッドフォンまで飛ばすわけです。

 

ヘッドフォン側はそれを受信して鳴らすという仕組み。これで生涯はじめて無線音楽再生を経験し、な〜んて便利なんだろう!と大きな感銘を受けた記憶がいまでも鮮明に残っています。1990年代後半ごろ。京王線調布駅前にあったパルコ内の楽器/オーディオ・ショップで見つけました。

 

スピーカー好きのぼくがどうしてヘッドフォンか?というと、当時は結婚していて同居人がいましたから。特に夜は隣室のパートナーのほうがぼくよりもずいぶん早く寝ますからそれ以後の夜間はヘッドフォンで聴きましたし、日中でもリクエストされることがありました。

 

音質云々よりもワイアレス音楽再生の快適さをこの赤外線ヘッドフォンですっかりおぼえてしまったぼくは、ずっとそれがオシャカになるまで使っていました。母機が必要なものだから、もちろん電車やカフェのなかなどではワイアードのイヤフォン+ポータブルMDプレイヤーで、と使い分けていました(iPod登場はもっとあとのこと)。

 

いまではそんな使い分けをする必要すらなく、自室だろうと電車だろうとカフェだろうと同じ一台のワイアレス(おそらくほぼすべてBluetooth接続)ヘッドフォン or イヤフォンを使っているというひとが多くなっているだろうと思いますね。

 

ぼくはこれでも古くさいところだってある人間で、自室では大きくて重いハイ・ファイ・スピーカーから空中に大音量を放出しないと納得できないのですが、イヤフォンやヘッドフォンのたぐいなら、もはやワイアレスのものしか使わなくなりました。ワイアードなやつのほうが高音質再生が可能とわかっていますけれどもね。

 

(written 2021.9.4)

2022/02/02

イマニュエル・ウィルキンスの暴発 〜『The 7th Hand』


(4 min read)

 

Immanuel Wilkins / The 7th Hand
https://open.spotify.com/album/3OROcJURkOtf5sOitgchGD?si=bjCZpMLRQ7apb5BanGsnng

 

現代若手ジャズ・サックス No.1(私見)であるアルトのイマニュエル・ウィルキンス。二作目にあたる出たばかりのニュー・アルバム『ザ・セヴンス・ハンド』(2022)も、ミカ・トーマス(ピアノ)、ダリル・ジョンズ(ベース)、クウェク・サンブリー(ドラムス)という不動のメンバー。

 

+曲によってパーカッション・アンサンブルが入ったり(2)フルート奏者が参加したり(5、6)ですが、基本は四人編成のワーキング・バンドによってシンプルに演奏されています。なお、1+2曲目、そして5+6+7曲目が曲間のポーズなしでメドレー形式みたいに流れてきますが、編集でしょう。

 

人種問題をテーマにしていた前作『オメガ』に比べ、全体的にはややおとなしめな演奏ぶりかもと思えますが、イマニュエル以下バンド全員でぐいぐい迫るパッションを聴かせる曲もあり、そういうのはたいそう好みです。

 

2020年暮れに前作のレヴューを書いたとき、まるでオーネット・コールマンか1965年以後のジョン・コルトレインがアルトを吹いているみたいだと評したはず。時代背景としても公民権運動とBLMムーヴメントという通底項があって、それに突き動かされるようにブロウしている音楽だという印象を持ちました。

 

そういう部分はきっとイマニュエル・ウィルキンスという音楽家の本質なんだろうと思うんですよね。今作『ザ・セヴンス・ハンド』でも、たとえば1曲目「イマネイション」は思い切り発散しているような演奏ぶりだし、2曲目以後は落ち着いてきますが、終盤の6「ライトハウス」でふたたびハードに。

 

「ライトハウス」ではイマニュエルもいいけどそれ以上にバンドですね。特にクウェク・サンブリーの手数多く細分化されたドラミングは、まるでなにかに取り憑かれたような一心不乱な激しい叩きまくりっぷりで、これホントどうなってんの?あ、いや、イマニュエルもかなりパッショネイトなブロウぶりです。

 

そこから切れ目なく続くラストの「リフト」。26分以上とアルバムの大半を占めるこの曲こそ絶対的な白眉。こ〜れが!ビックリ仰天のアトーナルな全面フリー・コレクティヴ・インプロヴィゼイションなんです。途切れない一曲で26分の完全フリー・ブロウなんて、まるでシックスティーズの趣き。いまどきの音楽でこんなの、聴くことなかったですよねえ。

 

しかも「リフト」には用意されたテーマとかモチーフ、コンポジションやアレンジメントなどいっさいなく、全面的に出たとこ勝負のアトーナル・フリー・インプロで、イマニュエルもまるで坂田明みたいにフリーキー・トーンを乱発し過激に吹きまくり止まらないっていう、ほんとマジなにこれ、どうしたの?

 

整然としたウェル・アレンジドなものが多く、ソロ展開というよりアンサンブルで聴かせる現代ジャズにおいて、こんな一発勝負のフリーキーなフリー・インプロ・ブロウが、しかもカルテットの全員により26分も続くなんて、いまや相当めずらしいものであるはず。

 

ステディなビートもなくフリー・リズムで、ドラムスもベースも自由かつパルシヴに演奏しているし、ピアノのミカ・トーマスだって終始鍵盤をフリーキーに殴り続けているんですよね。

 

こうしたエモーションの暴発が、前作同様BLM的な怒りと抗議の姿勢に支えられたものかどうかはわかりませんが、イマニュエル・ウィルキンスの音楽や吹奏ぶりは、21世紀ジャズにあって比類なき突出ぶりに思えます。

 

(written 2022.2.1)

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2022/02/01

サントラで音だけになっても高揚感は同じ 〜『サマー・オヴ・ソウル』


(7 min read)

 

v.a. / Summer of Soul (…Or, When The Revolution Could Not Be Televised) Original Motion Picture Soundtrack
https://open.spotify.com/album/28BxxgJQdogo7eWYbwHH7w?si=h5F59DomT4mWEsI4WFVaaw

 

昨年日本でも公開された映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時)』は、ソースである1969年夏のハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルのコンサート・シーンに多数のインタヴュー風景(は2021年時点でのもの)をどんどんインサートしてありました。

 

そのため、あのフェスティヴァルに出演したブラック・ミュージシャンたちの音楽こそをそのままじっくり楽しみたかったという黒人音楽ファンにはやや不満が残るものだったというのも事実。映画公開時点ではサントラ・アルバムも出ませんでしたし。

 

今年一月になって、そのサウンドトラック・アルバムがようやくリリースされたわけです。タイトルは映画と同じ『サマー・オヴ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時):オリジナル・モーション・ピクチャー・サウンドトラック』(2022)。

 

以下、映画で流れた曲を登場順に一覧にしておきましたので、今回発売されたサントラ・アルバムのトラックリストとじっくり比較してみてください。映画本編はディズニー+で配信されています(ビートルズ『ゲット・バック』のついでに観て確認した)。

 

右に*印がついているのはサントラにないもの。アビー・リンカーンとマックス・ローチの「アフリカ」はデジタル・リリースだけでCDには未収録のようです。

 

1. Drum Solo / It’s Your Thing (Stevie Wonder) *
2. Uptown (The Chambers Brothers)
3. Why I Sing The Blues (B.B. King)
~~ Knock On Wood (Tony Lawrence and The Harlem Cultural Festival Band)
4. Chain Of Fools (Herbie Man ft. Roy Ayers) *
~~ Give A Damn (The Staple Singers)
5. Don’tcha Hear Me Callin’ To Ya (The 5th Dimension)
6. Aquarius / Let The Sunshine In (The 5th Dimension)
7. Oh Happy Day (Edwin Hawkins Singers ft. Dorothy Morrison)
8. Help Me Jesus (The Staple Singers) *
9. Heaven Is Mine (Prof. Herman Stevens & The Voice Of Faith) *
10. Wrapped, Tied & Tangled (Clara Walker & The Gospel Redeemers) *
11. Lord Search My Heart (Mahalia Jackson & Ben Branch) *
~~ Let Us Break Bread Together (Operation Breadbasket)
12. Precious Lord, Take My Hand (Mahalia Jackson & Mavis Staples)
13. My Girl (David Ruffin)
14. I Heard It Through The Grapevine (Gladys Knight & The Pips)
15. Sing A Simple Song (Sly & The Family Stone)
16. Everyday People (Sly & The Family Stone)
17. Watermelon Man (Mongo Santamaria)
18. Abidjan (Ray Barretto) *
~~ Afro Blue (Mongo Santamaria)
19. Together (Ray Barretto)
20. It’s Been A Change (The Staple Singers)
21. Shoo-Be-Doo-Be-Doo-Da-Day (Stevie Wonder) *
22. Ogun Ogun (Dinizulu & His African Dancers & Drummers) *
~~ Cloud Nine (Mongo Santamaria)
23. Hold On, I’m Coming (Herbie Mann & Sonny Sharrock)
24. It’s Time (Max Roach) *
25. Africa (Abbey Lincoln & Max Roach)
26. Helese Ledi Khanna (Hugh Masekela) *
27. Grazing In The Grass (Hugh Masekela) *
28. Backlash Blues (Nina Simone)
29. To Be Young, Gifted & Black (Nina Simone) *
30. Are You Ready (Nina Simone)
31. Higher (Sly & The Family Stone) *

 

さて、映画のほうの感想は昨年10月に映画館で観たとき書きましたが、いかにもヒップ・ホップ・ドラマーだけあるという監督クエストラヴのリズム感が全編で冴えていて、個人的にはとても好きでした。ステージでの演奏シーンにインタヴュー風景が挿入されるテンポにモンタージュ・ビートがあったというか、そこにヒップ・ホップなトラック・メイク感覚があふれていて、しかも現代のBLMテーマもくっきり描き出していたなと思えましたし。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/post-50a1e5.html

 

サントラ・アルバムで音楽だけになれば、1969年のものですから当然そういう要素は消えるわけで、2020年代的な意味ではイマイチおもしろくなくなったかも?という気がしないでもありません。それでもハーレム・カルチュラル・フェスティヴァルでの音楽がどんなだったかはわかりやすくなりました。

 

サントラを聴き進み個人的に特に印象深いのは、まず3、4トラック目のフィフス・ディメンション。黒人グループがなぜか白人音楽をやっているなどと当時は言われたものでしたが、なかなかどうしてファンキーじゃないかと思えます。そもそも黒/白と音楽性を分ける必要があるのか?という根源的な疑問も湧いてきます。

 

ハーレムのどまんなかで大勢の黒人(ばかりな)聴衆の前で披露するブラック・ミュージック・フェスティヴァルなんだから、フィフス・ディメンション側もある程度意識したという面があったかもしれませんが、そもそもそんな白人音楽っぽくはなかったのだというのがぼくの正直な感想です。

 

7、ステイプル・シンガーズも興味深いですね。パップス・ステイプルズがギターで短い同一フレーズを延々反復するブルーズなわけですが、このヒプノティックなループ感覚はまるでノース・ミシシッピのヒル・カントリー・ブルーズみたいじゃないですか。

 

ジャズ聴きとしては12、ハービー・マンも気になります。特にソニー・シャーロック(ハービーのメンバー紹介では「サニー・シュラック」に聞こえる)のギターのアヴァンギャルドさにしびれるわけですが、実はそれもブルーズ伝統に沿ったものだったとよくわかります。

 

そしてなんといってもサントラのクライマックスはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの二曲とニーナ・シモンの二曲。映画のほうでもBLM的なテーマを表現するのに重要な役割を果たしていた二者ですが、サントラで音だけになっても高揚感は同じ。

 

黒白混淆の現代的共存を(69年当時は)目指していたスライに比べ、ニーナのほうはディープにアフリカン・ルーツを見つめる内容で、そんなニーナの「アー・ユー・レディ」みたいな音楽でアルバムがしめくくられるのには、やはり2020年代のブラック・テーマを打ち出したいクエストラヴの意図がしっかりみえます。

 

(written 2022.1.31)

2022/01/31

アナザー・ルーフトップ in コロナ時代 〜 ノラ・ジョーンズ


(4 min read)

 

Norah Jones /
Let It Be → https://youtu.be/2q5n2X5ARRA
I’ve Got A Feeling → https://youtu.be/E4Zwv3xndjM

 

あれっ、きょうは1月30日なのか。ビートルズのルーフトップ・コンサート(完全版)配信のことを書いてアップしましたけど、それがロンドンはアップル・ビルの屋上で行われたのが53年前のピッタリ1/30。意識していなかったですけど、偶然ってオソロシイ。

 

それで、ぶらぶらTwitterを眺めていたらビートルズ公式がシェアしてくれていたので知ったノラ・ジョーンズとバンドによるライヴ・カヴァー二曲「レット・イット・ビー」「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」の動画を観ました。

 

そして、それもなんとルーフトップ・コンサートなんですよね。米ニュー・ヨークのエンパイア・ステイト・ビルの展望デッキで実施された、これも無観客配信ライヴ・ショット。それでもってビートルズのアルバム『レット・イット・ビー』からの曲をやるなんてぇ。同じようにみんな厚着で寒そうだし。

 

公式YouTube動画の説明文に書いてあるのを転載しておくと、昨2021年12月の撮影で、サーシャ・ドブスン(vo)、ガス・セイファート(ba, vo)、ブライアン・ブレイド(dms, vo)というシンプルな編成。観客らしき歓声や拍手が終演後に聞こえますが、どこにいるんだろう?

 

NYCエンパイア・ステイト・ビル屋上でのノラのこれは、そもそも昨年の新作クリスマス・アルバム『アイ・ドリーム・オヴ・クリスマス』を記念してクリスマス時期の12月に実施された配信ライヴで、そこからのレパートリーを中心に約25分間。それにビートルズの二曲はありませんでしたが、おそらく同じときの収録だったのをとっておいたんでしょうね。
https://www.youtube.com/watch?v=9eMdp6OCS-E

 

もちろん曲「レット・イット・ビー」のほうはビートルズのルーフトップ・コンサートにありませんけれど、この二曲をノラが選んだことには意味がありそうです。「暗闇でも一筋の光が差す」「離れ離れになっていてもいつかきっと会える日がある」(「レット・イット・ビー」)、「だれだってつらいときはあるもんさ、いいことだってある」(「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」)など、いまのこのコロナ時代にメッセージとなりうる内容じゃないですか。

 

ビートルズのルーフトップ・コンサートやアルバム『レット・イット・ビー』でこれほどの訴求力を持つものはこれら以外にありませんからね。もちろんポールもジョンもいつの時代どんな状況にもあてはまることを書いただけで、普遍的な価値を持つ歌だと言えるんですが、いまは人類がことさら困難な状況に直面しているように思いますから。

 

ノラのエレピの弾きかたや歌いかたには、特にエレピのほうかな、かなりファンキーでブルージーなタッチが目立っていて、ぐいぐい迫るこの泥くささはまるで50年くらい時代をさかのぼったよう。でもそもそもそんなスタイルを最初から持ちあわせてきた音楽家で、このNYルーフトップ・ライヴにかぎった話ではありません。

 

まるで、ロンドン(アップル・ビル)とニュー・ヨーク(エンパイア・ステイト・ビル)という二つのルーフトップを、53年の時を超えて、結びつけているかのような演奏フィールで、おおいに胸を打たれるスペシャルなものがありますね。

 

(written 2022.1.30)

2022/01/30

ルーフトップ・コンサート完全版は配信ライヴみたいなもん 〜 ビートルズ


(6 min read)

 

The Beatles / Get Back (The Rooftop Performance)
https://open.spotify.com/album/6emgUTDksZyhhWmtjM9FCs?si=q_oZWmJsSheOjWIOVITBkA

 

2022年1月28日リリースのお楽しみ音楽アルバムが四つ、前からの告知どおりちゃんと出ました。

 

1. ビートルズのドキュメンタリー『ゲット・バック』からいはゆるルーフトップ・コンサート部だけ抜き出し、公式に単独アルバムとしたもの。

2. 昨年いちばんの映画だった『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時)』のオフィシャル・サウンドトラック。

3. 現在の若手ジャズ・アルト・サックス No.1、イマニュエル・ウィルキンス期待の新作アルバム『The 7th Hand』。

4. ベイルートの初期&未発表曲集『Artifacts』。

 

どれも楽しかったのでくりかえし聴いていますが、一つづつ順番に感想を書いておきましょうね。きょうはビートルズの『ゲット・バック(ザ・ルーフトップ・パフォーマンス)』(2022)。

 

これがもとは昨年11月末来ディズニー+で配信されているドキュメンタリー『ゲット・バック』パート3の終盤部にしてクライマックスだったことは、以前書きました。ルーフトップ・コンサートだけ単独でアルバム発売すればいいのにねとも言いました。
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やはりファンの多くも同感なのか、ビートルズ公式サイドも認識しているということか、リクエストが多かったらしいせいか、一連のゲット・バック・セッションのラストを飾る1969//1/30のルーフトップ・コンサート部だけ、IMAXで映画上映されることになりました。といってもアメリカでの話で。いいなぁいいなぁ。

 

それにタイミングをあわせてということだとみえますが、ルーフトップ・コンサートの音声だけ、アルバムとして全世界で配信リリースされたんです。これ、CDでも発売されたらいいのにねえ。レコードにしたってサイズ的には余裕ありすぎるくらいだし、ビートルズ・ファンは円盤で聴きたい層が中心なように思いますから。

 

いずれにせよ、音だけになったから様子がよくわかる『ザ・ルーフトップ・パフォーマンス』、もちろんこれはライヴ・アルバムです。ゲット・バック・プロジェクトとは新曲でライヴをやりテレビ放送とライヴ・アルバムを作成することが目的ではじまったものでしたから、53年を越えそれが実現したのだと言えますね。

 

演奏者と聴衆がたがいに姿が見えないという、なんというか野外セミ・パブリック環境みたいなライヴであるのは、1969年時点ではかなり特異なものでしたが、いまや2020年初春来のコロナ禍で無観客配信ライヴとかがさかんに行われているという、そんな時代に公開されたコンサート・ミュージックであることを考えれば、なかなか興味深い一面があるなと感じます。

 

リリース形態もサブスクという配信で、なんですが、そもそもルーフトップ・コンサートは当時から配信ライヴみたいなもんだった、とも言えることになるわけで、もちろんそんなこと、こんなに感染症が大爆発するのも、こんなにインターネットとデジタル・ディバイスが普及しているのも、当時のビートルズとしては予期すらしなかったことですけど。

 

サウンドは、昨年ディズニー+で(ルーフトップ・コンサート部だけ)なんどもなんどもくりかえし視聴していたのと違うように聴こえます。音質面でかなり向上しているだけでなく、各楽器間の音量バランスや、それとヴォーカル&曲間の会話の出し入れまで、だいぶクッキリしたように感じます。特にベースやベース・ドラムの低音が太くなりました

 

今回単独アルバムでリリースするにあたって、ジャイルズ・マーティンらがしっかりしたリミックス&リマスター作業を行ったのだろうと推測できますね。おかげで一個の音楽アルバム商品として完成度が高まった、というかルーフトップ・コンサートがフルで単独発売されたのは今回が初ですが。

 

主にジャズやロックの世界で、アーカイヴものがエンタメ完成商品として成立するようになったという事情も見逃せません。特に1960〜70年代のクラシック・ロックはそうですよね。『ザ・ルーフトップ・パフォーマンス』も別テイクが多く、それをはがして、ジャムも外し、いちばんいいテイクだけにしぼったらたったの五曲しかありませんから。

 

それでもたったの五曲とはいえ、出来のいいものはマジで聴きごたえ充分で、生演奏ライヴでのビートルズの実力を思い知ります。これ、どうして昨年発売の『レット・イット・ビー』50周年記念ボックスにふくめなかったのでしょうか、そこが謎だと思えるほど。どのみち多数枚組の巨大ボックスなんですから、たった40分弱のルーフトップ・コンサート完全版を一枚追加しても大差なかったのでは?

 

(written 2022.1.29)

2022/01/29

選曲の勝利 〜 おかゆウタ 2


(6 min read)

 

おかゆ / おかゆウタ カバーソングス2
https://open.spotify.com/album/0rMhvBu9iTuuP16TkO4Xac?si=YuS2idLiSEyFh3t9tEnYBA

 

1月26日にリリースされたおかゆの新作カヴァー・アルバム『おかゆウタ カバーソングス2』(2022)、サブスクでなんども楽しんでいますので、ちょこっとメモを残しておきましょう。2021年のカヴァー集第一作(その前、インディのデルコラソン・レコード時代にも一作あり)に続くもので、好調にシリーズ化されていて、いいですね。

 

おかゆには、以前書きましたが昨年の新曲「星旅」で惚れ、そりゃあもうあんまりにもカッコいいんで、あれじゃあ一発KOされちゃいますって。アホほど聴きました(サブスクで)。存在はその前から知ってはいて、わさみんチェックで視界に入ってくる歌手でしたからね。
https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2021/10/post-6d2790.html

 

どこからどうみても演歌のアルバム・ジャケットじゃない『おかゆウタ 2』、カヴァーされているレパートリーも歌謡曲中心で、鮮明な演歌系といえるのはラストの「氷雨」だけ。ラッパー心之助の「雲の上」やアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のテーマ「残酷な天使のテーゼ」(わさみんも歌った)すらあるくらいですから。

 

そのへん、とりあげられている曲の初演歌手と作者名を発売元のビクターが一覧にしてくれているサイトがありましたので、ご紹介しておきます。星数の同名異曲がある4「東京」は、やしきたかじんのやつ。
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A026434/VICL-65637.html

 

こうした曲の数々を歌うおかゆのヴォーカル・スタイルはっていうと、それでもやはりやや演歌っぽさを感じさせる色が発声とフレーズ末尾の歌いまわしにあって、かといってストレートな演歌歌手として扱うには薄味であっさりしたポップなもの。

 

そのへんの中間的さ加減っていうか(演歌でもポップスでもない)中庸さがおかゆヴォーカルのよさ、持ち味ですね。ときどき新時代の新感覚歌唱法に挑んだり、やや古くさい従来的な演歌路線もこなしたりという融通無碍なところは、やっぱり新世代のあかし。

 

今回の『おかゆウタ 2』、まず1曲目「雲の上」で声が大胆にエレクトロニクス加工されぐにゃっとゆがめられていてオッと思いますが、こういったヴォイス処理は「星旅」の一部でも聴けたもの。演歌ではありえなかった手法ですが、おかゆサイドはときどきやるトレードマークみたいなもんかも。

 

アルバムを聴き進み、個人的にとてもいいねと実感するのは3曲目「メロディ」から。玉置浩二の大名曲でカヴァーも多いですが、はっきり言って玉置はいまアジアでいちばん歌がうまいくらいな歌手なので、それと比較することはできません。

 

でもこれは曲がとてもいいんですよね。ピアノ一台だけの伴奏でしんみりつづっているなと思いきや、箇所により声のハリとノビもみごと(やや演歌ヴォーカルっぽい?)。「ライヴ」との文字がトラックリストに見えますが、コンサートとかイベントとかじゃなく、無観客スタジオ配信ライヴですらなく、たんにピアノ生演奏に乗りその場で一発同時録りしたという意味みたいです(公式YouTubeにその風景が上がっているので)。

 

そして4「東京」。こ〜れが最高です。サルサなピアノに導かれキューバン・リズムが入ってきて、完璧なるラテン歌謡を披露しています。ティンバレスも心地よく、アレンジがいいんだねえと思いたかじんのオリジナルを確認すると、ほぼ同じでした。それをおかゆは踏襲しただけで、だから選曲の勝利といえるんでしょう。この「東京」は本アルバムの白眉じゃないでしょうか。

 

6「みずいろの雨」7「五番街のマリーへ」8「DOWN TOWN」と個人的になじみのあるたいへん好きな曲が続く後半も(選曲が)すばらしい。アレンジやおかゆの歌唱にこれといって書き記すべき特徴はありませんが、曲で聴かせるといった趣きなんでしょうね。

 

目を(耳を)引くのは9「星めぐりの歌」。知らない曲だなあ〜聴いてみてもわかんないやと思うと、これは宮沢賢治が作詞作曲したものだそう。そう言われれば、歌詞には賢治らしいSF要素がちりばめられています。これは今回のおかゆヴァージョンで初めて知ったものですから、カヴァーとも思えないほど。

 

ラスト10「氷雨」は<おんな流し>を売りにしている(実際下積み時代に流していた)おかゆらしいギター流しスタイルでの弾き語り。ギター・アレンジも本人がやっています。これだけは従来的な演歌っぽさを強く感じさせ、だから本作ではボーナス・トラック扱いですね。

 

なお、この「氷雨」でもライヴ収録っぽさというか、観客のざわめきや空気感、拍手まで聴こえますが、それに重なって入るおかゆのMCやヴォーカルはあからさまに層が違うので、現場流しスタイルをよそおっただけのスタジオ収録でのダビングとわかります。

 

(written 2022.1.28)

2022/01/28

ポール・マッカートニーのアクースティック・ギター名演選


(3 min read)

 

Acoustic McCartney
https://open.spotify.com/playlist/078Q9j0sMzjJsCn8RtPYee?si=be1db7c260d140b0

 

萩原健太さんのブログからパクりました。
https://kenta45rpm.com/2022/01/20/nothing-but-pop-file-vol-2-acoustic-mccartney/

 

ポール・マッカートニーのアクースティック・ギター演奏がどうすばらしいのか、どこが絶品なのかというと、指が速く正確に動くという次元の話ではなく、アレンジ能力というか、どういう音をどこにどれだけどう積むかというアイデアがとんでもなくみごと。

 

コンポーザー、アレンジャー、プロデューサーとして一流のポールらしいところなんですが、どんなジャンルの音楽でもどんな楽器でも、ぼくはそうしたミュージシャンに強く惹かれる傾向があるんです。

 

ビートルズ時代からポールはそうしたアクギの腕前を披露してきましたが、その後現在までのソロ活動もふくめて、存分に堪能できるApple Musicプレイリストを、熱心なファンである健太さんが上掲記事中で公開していましたので、さっそくなんどもくりかえし楽しませてもらいました。
https://music.apple.com/jp/playlist/nothing-but-pop-file-vol-2-acoustic-mccartney/pl.u-YkK2FPRBNPl?l=en

 

健太さんはギターリストでもあるので、それもあってポールのすごみを実感しているということだと思います。ぼくのほうはただの一般素人リスナーですから、なんとなくきれいだなぁと感じて惚れ惚れ聴いているだけ。

 

それで、ぼくはSpotify常用者なので、健太さんのがよかったから同じプレイリストをSpotifyで作成しておこうと思って。アプリ切り替えがメンドくさいだけっていうモノグサゆえなんですけど、するとApple MusicにはあるけどSpotifyでは配信されていないっていうのが一曲だけありました(「ヴァニラ・スカイ」、無念)。

 

それはだからあきらめて、そのついでに健太プレイリストにはないものを自分なりにちょこっと混ぜてみようと。2018年リリースだったビートルズ『ホワイト・アルバム』50周年記念エディション収録の『イーシャー・デモ』からと、ポール1991年の『アンプラグド:ジ・オフィシャル・ブートレグ』から、それぞれ数曲づつ入れてみました。

 

結果、健太さんのが12曲33分だったのに対し、ぼくのは15曲41分になりました。これでもじゅうぶんLPレコード・サイズにおさまったと言えます。聴きやすくていいですね。『イーシャー・デモ』とかライヴの『アンプラグド』とかは個人的に大好きなので、それなりに自分らしさは出せたかなという気もします。

 

ポールのアクースティック・ギター名演集、Apple Musicユーザーは健太さんので、Spotifyユーザーはぼくので、それぞれお楽しみいただければと思います。
https://open.spotify.com/playlist/078Q9j0sMzjJsCn8RtPYee?si=9ee6e74b9f504bf6

 

(written 2022.1.23)

2022/01/27

すべては美咲のおかげです(3)


(4 min read)

 

(1)https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2019/06/post-bea670.html
(2)https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2020/03/post-dbd52e.html

 

わさみんこと岩佐美咲のおかげでできるようになったこと、わさみんが導いてくれたこと、たくさんあります。演歌歌謡曲系の世界にふたたび没入するようになり、いままで知らなかった美品とたくさん出会えているというのも、そのひとつ。

 

それら、わさみんにハマらなかったら、どれも知るのがもっと遅れたか聴かないまま生涯を終えていただろうっていう。そう考えると、わさみんの重要性、わさ推し活の大切さがよくわかりますね。わさ活とはCDやグッズ買ったりイベントなど現場に参加してお金使ったりすることだけじゃありませんよ。

 

わさみんがカヴァーする歌のオリジナルを聴いたり、関連領域をディグすることだって、立派なわさ活です。わさみん由来なんですから。

 

演歌とか歌謡曲とか(J-POPでもいいけど)ぼくは長年遠ざけていました。もともと17歳で電撃的にジャズ・ファンになる前は、テレビの歌番組で聴けるそれらを楽しんでいたというのにねえ。山本リンダ、沢田研二、八代亜紀、山口百恵、ピンク・レディーなどなど、10歳ごろからしばらくのあいだ、ぼくの思春期そのものだったんですけど。

 

ジャズに夢中になり、関連するブルーズとかラテンとかロックとかワールド・ミュージックとかのレコードを買いまくるようになると、徐々にテレビの歌番組から遠ざかるようになり、17歳になるまでは買っていた45回転のドーナツ盤に見向きもしなくなりました。

 

そればかりか、シングル曲中心の演歌歌謡曲の世界は見下してバカにするようになっていきました。おおみそかのNHK『紅白歌合戦』も横目でチラ見しながらケッ!とか思うようになったり、そもそも見なくもなり、そんな具合で長い年月が経過していったんです。

 

それこそ20歳前ごろから40年近く。2017年初春にわさみんに出会うまではずっとそうでした。

 

考えてみれば、ぼくの音楽好き素地はこども時分にテレビの歌番組で聴く演歌や歌謡曲で養成されていて、音楽愛好家気質もそれで地固めができていたのに、ジャズにハマってずいぶんと恩知らずをはたらいていたもんです。

 

わさみんがそんなぼくを、もといた本来の世界へと連れ戻してくれたんです。わさみんがどんどんカヴァーする過去の流行歌を聴き、オリジナルはどんなだっけ?とさぐって聴くようになったし、関連する演歌歌謡曲系アカウントをたくさんフォローするようになったので、自然と情報が入ってきて、聴いています。

 

わさみんと同じくらい惚れ込んでいる中澤卓也だって、出会ったきっかけは2019年8月の「DAMチャンネル演歌」公開収録現場に(わさみんが主役だったので)出かけていったからにほかならず、あの場でたくさんの演歌歌手を聴き、一部はその後フォローするようになりました。瀬口侑希だってそう。

 

坂本冬美や徳永英明そのほかを聴くようになり、特に坂本昌之がアレンジした作品なんか、もうほんとうに極上の美しさだなぁと心底惚れ込んでいるのだって、そういう世界へ戻ってくるきっかけをわさみんがつくってくれなかったら、知らないままだったはず。

 

そもそも坂本昌之という天才アレンジャーの存在にすら気がつかなかっただろうし、坂本を知らなかったら近年の由紀さおりのアルバムのすばらしさも知ることなくぼくは人生を終えていたでしょう。あんな美しい世界と縁がないまま死ぬなんて絶対にイヤですけど、きっとそうでした。わさみんに出会わなかったら。

 

そう、だから、すべてはわさみんのおかげなんですよ。

 

(written 2022.1.13)

2022/01/26

レイチェル・ナギーに捧ぐ 〜 デトロイト・コブラズ


(3 min read)

 

The Detroit Cobras / Life, Love and Leaving
https://open.spotify.com/album/2obANE2dwXlqzslF5vTBij?si=NWqivsLaSQSLn50czV2eAw

 

こりゃもうジャケット一瞥した瞬間にそれだけでイッパツ決まりだっていう、デトロイト・コブラズのアルバム『ライフ、ラヴ・アンド・リーヴィング』(2001)。Spotifyで2016となっているのはリイシュー年ですね。

 

その名のとおりデトロイトのガレージ・ロック・バンドで、1994年デビュー。しかもこのバンドにオリジナル曲はほぼなく、カヴァーばかり。フロント・ウーマンのレイチェル・ナギーがついこないだ2022年1月16日に死んじゃったので、代表作であるこのアルバムも追悼の意味で(一部では)話題になっていました。

 

『ライフ、ラヴ・アンド・リーヴィング』でどんな曲をカヴァーしているか、このバンドはあまり知られていないレアなところを拾ってくるんで、以下に初演歌手をちょっと一覧にしておきましょう。

 

1) Hey Sailor (ミッキー・リー・レイン)
2) He Did It(ロネッツ)
3) Find Me a Home(ソロモン・バーク)
4) Oh My Lover(シフォンズ)
5) Cry On(アーマ・トーマス)
6) Stupidity(ソロモン・バーク)
7) Bye Bye Baby(メアリー・ウェルズ)
8) Boss Lady (デイヴィス・ジョーンズ&ザ・フェンダーズ)
9) Laughing at You(ガーデニアズ)
10) Can’t Miss Nothing(アイク&ティナ・ターナー)
11) Right Around the Corner(5 ロイヤルズ)
12) Won’t You Dance With Me(ビリー・リー&ザ・リヴィエラズ)
13) Let’s Forget About the Past(クライド・マクファター)
14) Shout Bama Lama(オーティス・レディング)
15) This Old Heart(ジェイムズ・ブラウン)

 

つまり、1950〜60年代にレコード発売された古いポップ・ソング、それも埋もれてしまった知られざる曲ばかりピック・アップしてリメイクしているのがデトロイト・コブラズってわけ。ブラック・ミュージックに分類される曲が多いですが、このバンドの解釈は完璧にオールディーズ・ポップ・スタイル一本槍です。

 

言い換えれば、フィル・スペクターがプロデュースしたロネッツとか、あの時代のああいった音楽へのレトロ・シンパシーを表現しているんですよね(レイチェルはロニー・スペクター的 “bad girl” イメージも持っていた)。60sモータウン・ポップスの感触もあります。

 

どれもこれもオリジナルとは大きく趣きを異にしていて、このバンドがリメイクの達人と呼ばれるゆえんですが、曲もスタイルも心底好きじゃなきゃできないこういった路線、バンドを結成したレイチェルとメアリー・ラミレス(ギター)の趣味全開といったところでしょうか。

 

カヴァーするひともないクライド・マクファターの隠れた名曲13「過去のことなんか忘れちゃおう」を、ギター中心のちょっとラフでルーズなオールディーズ・サウンドに乗せて、ハスキー・ヴォイスのレイチェルがつづるさまなんか、マジで沁みます。

 

(written 2022.1.24)

2022/01/25

ラウンジーでクラビー 〜 ジェブ・ロイ・ニコルズ


(2 min read)

 

Jeb Loy Nichols / Jeb Loy
https://open.spotify.com/album/7HP3FS7YFjpGK8J2nSu4tQ?si=mSO_vOkXTJqQAlk04TFXUQ

 

萩原健太さんのブログで知りました。
https://kenta45rpm.com/2021/06/17/jeb-loy-jeb-loy-nichols/

 

米ワイオミング生まれ、もとはカントリー・ロックのひとで、ここ10年は英ウェールズに住んでいるらしいジェブ・ロイ・ニコルズ。1981年以後ロンドンでずっと活動していたそうで、それっぽいアシッド・ジャズ〜レア・グルーヴな要素もあわせ持つ音楽家じゃないかと思います。

 

そんなジェブ・ロイの2021年新作『ジェブ・ロイ』がなかなかいい。ヴィンテージ・ソウル系のリリースを連発しているフィンランドのインディ・レーベル、ティミオン・レコーズからリリースされたもので、そのハウス・バンド的存在であるコールド・ダイアモンド&ミンクが伴奏です。

 

実際アルバムの中身も1970sなソウル・ミュージックっぽさで満たされているといってよく、そこにジェブ・ロイ独自のフォークやカントリー、ロックなどもごった煮にしながら、そうですね、ずっと前のよかったころのヴァン・モリスンを思い起こさせる音楽に仕立てています。

 

ちょっとやさぐれ気味のルーズなグルーヴ感とか、アクースティックな手触りに満ちたソウルフルなサウンドや、メロウなメロディはジェブ・ロイならでは。アシッド・ジャズっぽいというか、要するにクラブ・ジャズ系のグルーヴ・テイストがはっきり感じとれるのは、本人のキャリアもさることながらバンドの貢献が大きそう。ギター・カッティングとかハモンド・オルガンとか。

 

ジェブ・ロイみたいな内省的なつぶやき系ヴォーカルは、本来ブラック・ミュージックとは相性のよくないものでしたが、このアルバムではいい感じに響くというか、ボソボソしゃべっているようなのがかえってラウンジーでクラビーなムードをかもしだしているといえるかも。

 

(written 2021.12.27)

2022/01/24

ちょっぴりミナスなブラジリアン・ラージ・アンサンブル 〜 ジャズミンズ・ビッグ・バンド


(3 min read)

 

Jazzmin’s Big Band / Quando Eu Te Vejo
https://open.spotify.com/album/35I2GPPEfWfyOUDVdAxBZW?si=XzHgqdA6SeK1ahukmQr23g

 

全員女性で編成されたブラジルのジャズ・ビッグ・バンド、ジャズミンズ・ビッグ・バンドのデビュー作『Quando Eu Te Vejo』(2021)がちょっとした佳作。均整のとれたアンサンブルでブラジル音楽の豊かな伝統とコンテンポラリーなセンスとの融合に成功しています。バンド名の「ジャズミン」っていうのはジャズとジャスミンをひっかけてあるんでしょう。

 

管楽器担当だけで十人以上いるという大所帯。ジャズ・ビッグ・バンドとして、北米合衆国の伝統的なマナーをある程度は受け継ぎながらも、かなり顕著にMPB的な表現をも顕在化させているところが、現代ブラジル人音楽家らしいところですね。

 

全体的にはクールでおだやかな美しさが目立つ本作、ややミナス音楽的とみなすこともできるんですが、サンバ、ボサ・ノーヴァなリズム活用が軸になっているんじゃないでしょうか。オープニングの1曲目はなんでもない感じですが、2曲目「7×1」でいきなり躍動的なサンバ・ジャズを展開して、こ〜りゃいいなあ。

 

4曲目「Fácil Vem」にはややファンキーさすらあって、ピアノが奏でるブロック・コードのリフがなんともチャーミング。ホーン・アンサンブルは(どの曲も)おだやかですが、基底になっているリズム構造に着目したいですね。4曲目ではギターやサックスのソロもいいです。

 

そうそう、ソロといえばですね、だいたい本作ではそんなにたくさん聴けるというわけじゃありません。個人奏者のインプロ・ソロよりもどっちかというとアンサンブルに比重が置かれていて、そのバランスというか、ソロの連続で曲ができあがるというふうにはなっていないんで、このへんはアメリカ合衆国の現代ラージ・アンサンブルと共通する点ですね。

 

5曲目「Radamés Y Pelé」。こ〜れが絶品なんですよ。アルバム中ぼくはこの曲がいちばん好きで、サウンドの美しさに息を呑みます。ほんのり軽いボサ・ノーヴァ・リズムに乗せられたホーン・アンサンブルのたおやかさが、現代ブラジル音楽の最良の美点を表現しています。アントニオ・カルロス・ジョビンの書いたこの曲、タイトルはラダメース・ニャターリ(作曲家)とペレ(サッカー)のことですか?

 

6曲目でもブラス群に特徴のある多層にレイヤーされたホーン・サウンドに酔うような気分になれるし、ジョアン・ジルベルトも歌ったドリヴァル・カイーミの9曲目「Doralice」ではちょっとおどけるようなユーモラスさを強調する演奏になっていて、思わず微笑み。

 

(written 2021.12.19)

2022/01/23

「写メ」って?

(6 min read)

 

「写メ」ということばがいまだ使われることがあって、わりとよく見聞きしますが、これってよく考えたらもうおかしいですよねえ。写メールの略で、それはもうなくなったJ-PHONEのサービスだったんですから。2000年ごろから10年くらいのあいだでしたか。

 

もっとも、携帯電話にカメラ機能をつけて、撮ったものをそのままパッとメールで送れるようにするというサービスは、J-PHONE(ソフトバンク)のが爆発的大人気になったがゆえ、ドコモなど他社も速攻で追随し、さながら写メ文化が花ざかりという時代もあったらしいです。

 

その後の(2010年前後ごろからの)スマートフォンの登場と普及でもカメラ機能の搭載は必須となり、撮ったものをパッと送ったりネットに上げたりするのはみんなのあたりまえになりましたから、そんな文化のルーツは、というとたしかにJ-PHONEの写メールにあったのかもですが。

 

この「写メ」ということばにぼくが違和感を抱くのは、その全盛期をまったく知らずに素通りしたからです。ことばの成り立ちや意味は理解できるものの、いまや写真撮ってもメール添付しないだろうと。Instagramなどソーシャル・メディアにアップするんでしょと。

 

だれもメールで送らないんだから、写「メ」じゃないだろうと、そう思うわけです。

 

カメラがついているスマホを一人一台持っている時代になり、各種ソーシャル・メディアだってどれか一個はだれもが登録しています。ぼくはちょうどそんな時代になってだいぶ経った2017年6月にはじめてスマホを買ったんですから、「写メ」時代を知らないので、このことばに実感がないのもムリはありません。

 

といってもですね、いま自分のPhotosアプリに存在する一番古い写真は、なんと2007年3月2日撮影とのタイム・スタンプがついているんです。それが上で掲げたカルカベ(グナーワなどで使われる鉄製カスタネット)の写真二枚。そう、これ撮ったなあ。東京在住時代。はっきり憶えています。

 

グナーワ・ミュージックなどで聴くカルカベの音が好きでたまらないぼくは、自分でも鳴らしたいと思い、ネットでさがして通販で買ったんですよね。カルカベは両手に一個づつ持って鳴らすのだからペアです。

 

そしてちょうどそのころ、パートナーの強い要請によりぼくはカメラつきガラケーを持たされていたんです。くわしい経緯は省略しますが、ぜんぜん使わず携帯もせず、でかけるときも自室のテーブル脇に置きっぱなしでしたから、パートナーにほどなく解約してくるからと言われましたけども。

 

だから持っていたのはほんの短いあいだでしたが、そのあいだにカルカベを買い、これは撮っておきたいと思ったか、あるいはおそらく(のちのちなにかに使いたいとか考えて)パソコン内にファイルとして残しておきたかったんじゃないでしょうか。

 

いまやスマホ ⇄ パソコン ⇄ タブレット間はクラウドでファイルを同期できますので、同一Wi-Fi下であれば、スマホで撮った写真はなにもせずともそのままパソコンのPhotosアプリに入ります(ええ時代になったもんや)。

 

しかし2007年ごろはまだそんなことにはなっていなかったので、ガラケーで撮った二枚のカルカベ写真をパソコンに入れたいと思ったぼくは、メールに添付してMacで使っていた自分のアドレス宛てに送ったんですよね。いま考えたら、なんというメンドくささ。

 

その後Macは何台も買い替えましたが、カルカベ写真は引き継いで現在まで残っているという。いまやiPhoneで毎日大量に撮影するのがあたりまえの日常になりましたけども、2007年のこの二枚のカルカベ写真こそ、ぼくが携帯機器で写真を撮ったはじめてでした。

 

そして、それを(他人にではなく)自分のパソコン宛てにメールに添付して送ったんですから、写メだったといえるのかもしれないですね。う〜ん…。いずれにせよ2007年のガラケーですから、画質が悪いですよねえ。

 

写メということば、いまや10代の中高生には通じないし使われてもいないものだそう。そりゃあそうだよねえと思います。スマホでパッと撮ったものはソーシャル・メディアで共有するという文化ができてから生まれ育った世代なんですから。だいたいメールというシステムだって(ビジネス用途以外では)もう使われていないでしょう。

 

それを踏まえると、カルカベの写真を撮った2007年ごろイヤイヤ携帯を持たされて、どんな用途にもほとんど使わなかったけど、そのころが名実ともに写メ文化の最盛期でした。

 

ぼくはそれを知らないままずっと時間が経って、2017年になってはじめてiPhoneを、今度は自分の意志で進んで買って使いまくるようになったそのころにはとっくにSNS文化が定着していたがため、スマホで写真を撮るのを「写メ」と呼ぶのに強い違和感があるっていう。

 

もちろん、ことばって指し示す対象の事物がなくなっても生き続けるものですけどね。

 

(written 2022.1.22)

2022/01/22

ハラムで表現するアフリカン・クールネス 〜 ベン・アイロン


(3 min read)

 

Ben Aylon / Xalam
https://open.spotify.com/album/4E0S0Z55Y9mDWqpugqhQnl?si=9FchXkaRSH-btdknLIqA_A

 

現在セネガルに住んでいるだろうベン・アイロンは、イスラエル生まれのパーカッショニスト。サバールはじめ各種アフリカン・ドラムの演奏に卓越した腕をみせ、中東地域出身ながら「セネガルの次世代パーカッショニスト」と賞賛されている存在です。

 

そんなベン・アイロンの最新作『Xalam』(2021)はインターナショナル・デビューとなったもの。サバールをふくむ10種の太鼓を組んだドラム・セット(がベンの独自特徴)にくわえ、アルバム題どおりハラムという西アフリカ伝統の弦楽器を大きくフィーチャーしています。

 

独自のドラムスと、ハラムとジェリ・ンゴニ(は見た目も酷似しているし、同じような楽器では?)と曲によってはヴォーカリストと、それだけのアンサンブルでできあがっているように聴こえるこのアルバム、ゲスト参加のドゥドゥ・ンジャイ・ローズとかハイラ・アルビーとかはSpotifyのトラックリストでも名前が出ています。

 

個人的には歌ものよりインストルメンタル曲のほうがグッときますが、ドラムスだけでなくハラム(やジェリ・ンゴニ)の演奏もベン自身なのかもしれません。そのへんのクレジットが書かれてあるサイトがないか、さがしたんですけれども見つけられませんでした。でもきっとベンひとりの多重録音じゃないかと思うんですよね。

 

変幻自在で複合的なリズム形態を表現しているといういかにもな西アフリカ音楽ではありますが、聴いた感じぼくには弦の強いバズ音(三味線のさわりみたいなもの)も魅力的なハラムの演奏のほうが目立っているように思えるし、実際心に残るのもそっちです。

 

アルバム題にもしているんだし、ベン自身このワールド・デビュー作ではハラムを大きくフィーチャーし、聴き手にもそちらをアピールしたいという気持ちがあったんじゃないでしょうか。ビート感もそんな強烈に跳ねるとかもりあがるとかいう曲はなく、どっちかというとクールで静かにたたずんでいるミニマルな曲調のものが中心。

 

そして、ベン自身の弾くハラム・サウンドが、たしかにンゴニにそっくりだけど(くどいが同系楽器)ときおり親指ピアノのように聴こえる瞬間もあり、おそらく多重録音で折り重ねてタペストリーに編んであるハラム・アンサンブルが、まるで親指ピアノ群のポリ・レイヤーにも聴こえるんですよね。

 

4曲目「SeneGambia Pt.2」(は後半強靭なビートが効くけれど)や、ハラムを電化アンプリファイドしてあるだろう6「Benn Takamba」で聴ける強いノイズ感というかディストーション、さらに8「Cafe Touba」9「Mon Lov」で特徴的なアフリカン・クールネスがいいなと思います。

 

(written 2021.12.13)

2022/01/21

陽の当たらない裏道で 〜 ソニー・レッド


(5 min read)

 

Sonny Red / Out Of The Blue
https://open.spotify.com/album/5yJJWHsvWUqXiFHf9VZoqV?si=A8FDCn7BTxmcVQ1s2_rF7w
(オリジナル・レコードは8曲目まで)

 

大物好きのぼく。英文学者時代はウィリアム・フォークナー、ウラジーミル・ナボコフ、スティーヴ・エリクスンといった、メインストリームで目立ついわゆる「キャノン」ばかり研究し論文を書きました。

 

趣味の音楽のほうでも、ルイ・アームストロング、マイルズ・デイヴィス、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、ユッスー・ンドゥール、ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンなどなど、つまりメイジャーなスターが好きで、いわば陽の当たる明るい表通りを歩んだ成功音楽家を中心に聴く傾向がありますね。

 

ブランド志向の強い人間ではあるんですけど、2015年以来ブログをはじめて今度は自分がクリエイターの側にまわってみると、ちょこちょこ反応してくれるかたが一部にいるものの、ほとんど注目もされないし、決して表舞台で活躍しているとはいえない状態です。

 

一日たりとも欠かさず書いてきているブログ記事を整理してまとめて紙にインクで印刷して本にしてくれるなんて話もぼくにはないから、出版されたのを買って読んだみんなの賞賛を集めて…なんてこともありません。音楽系有名SNSアカウントが引用紹介してくれることだって皆無。

 

日々黙って書き淡々と更新するだけの、認められない、報われない人生だなあと痛感し、同じ世界にいる他人にはヒジョ〜に強い嫉妬、ねたみを感じるときもあるんですが、音楽家の世界だって見渡せばマイナーな存在がたくさんいます。クォリティは高いのに現役当時から没後の現在までほぼだれも注目しないという日陰者が。

 

ハード・バップのサックス奏者、ソニー・レッドもそのひとり。代表作のひとつ『アウト・オヴ・ザ・ブルー』(1960)のことを思い出したのは、こないだブルー・ノート・レコーズの公式SNSアカウントが自社に残る “(hidden) gem” として紹介したからです。
https://www.instagram.com/p/CYy5ZXir8zW/

 

だから、有名人好きのぼくなんか、その投稿を見るまですっかり忘れていたという体たらく。それにしてもソニー・レッドはちょっと間違いやすいというかまぎらわしい名前です。同じハード・バップ界隈にフレディ・レッド(ピアノ)がいて、さらに同じチャーリー・パーカー系ジャズ・サックス奏者でソニー・クリスがいますからね。三人とも知る人ぞ知るといった存在だぁ。

 

フレディ・レッドはなぜ人気が出なかったのか、テナー・サックスのティナ・ブルックスみたいに超マイナーな存在だけど一部に熱心なファンがついていて決して忘れられてはいない、なんてことにすらならなかったのはどうしてなのか。

 

決して実力不足ということじゃない、良質な音楽を残したのは、唯一のブルー・ノート作『アウト・オヴ・ザ・ブルー』を聴いてもわかります。ブルーズ・ベースの、ブルーズばかりの、典型的ハード・バップで(あ、なかにはハード・バップのブルーズが退屈だっていうひともいるんだってぇ〜)、サックスの音色も芳醇、フレイジングも魅力的です。

 

ジャッキー・マクリーンあたりと比較してもなんら遜色なく、一本調子で際立つ個性や主張がないといえばそうかもしれませんが、1960年当時のブルーズ系ハード・バップってだいたいこんな感じでしたよ。あっちが人気で歴史に名を残し、こっちはそうならなかったのに、合理的理由があるとは思えません。

 

現実問題、ハード・バップにおける1950年代後半〜60年代前半は最もシーンがにぎやかでしたから、この程度の演奏ができるミュージシャンはそれこそ無数にいて、しっかりしたリーダー作を複数残せた(ジャズランドにあり)というだけで実はたいへんラッキーだったのだと考えるべきかもしれません。

 

有名バンドに加入せずフリーランスで、歴史的名作にサイド参加する機会もゼロだったのが、ソニー・レッドの不運だったのかもしれませんね。1960年代にはそれでもそこそこ活動したんですけど、70年代後半になると完全に忘れられ、そのまま81年に48歳で亡くなりました。
https://en.wikipedia.org/wiki/Sonny_Red

 

(written 2022.1.20)

2022/01/20

歴史を感じながらコーヒーを飲む


(5 min read)

 

Twitterでフォローしているカフェバグダッドさんが、以前トルコ・コーヒーのことをnoteに書いていたことがあります。
→「トルコ・コーヒーはなぜ素晴らしいか1」
https://note.com/cafebaghdad/n/n81ebfaf0d0cd

 

そうです、愛好家でも、コーヒーを淹れて飲むときに、そもそもコーヒーの歴史を感じながらやりたいというひとはあまりいませんよね。

 

人類のコーヒー愛飲史をたどると、初期は炒った豆を粉砕してお湯を注ぐか水から投入して沸かすかして、それを濾したりせず、そのままうわずみ液をすすっていたんでしょう。文献資料にあたるとそういう記述が出てきます。

 

トルコ・コーヒーは、こうしたコーヒー・メイクの歴史を実感しながら飲めるというのがいいんです。とはいえ、こちら愛媛県ではトルコ・コーヒーを出してくれるお店もないし、自宅でやるには専用マシンを買わないといけないしで、どのみちちょいハードル高め。

 

だから、かなりなブラック・コーヒー愛好家として40年以上生きてきたぼくも、ずっと紙製のフィルターで淹れるという最も一般的に普及している方法をとってきたわけです。うまくやればとってもおいしいし、プロのやるカフェやレストランでもペーパー・ドリップで淹れて出すところは多いです。

 

ところが、ちょっと思うところがあったのと推薦してくれるかたがいたのとで、四年くらい前、2018年ごろだったかな、フレンチ・プレスでコーヒーを淹れるというのをはじめてみたんですよね。

 

フレンチ・プレス(or たんに「プレス」)とは、専用の器具に挽いた豆を入れ、熱湯を注ぎフタをして、そのまま四分待ったら、フタに付属するプランジャーを押し下げ金属製メッシュで豆を沈めて、上のコーヒー液をカップに注ぐというもの。


紙でも布でもフィルターで濾すと豆かすが液のなかに混じりこまず、透明で飲みやすいすっきりしたコーヒー液ができあがりますよね。もちろんそれでいいんですけど、コーヒー本来のうまみ成分までフィルターがシャットアウトしてしまうところはちょっとした問題です。

 

コーヒー・オイルもふくめコーヒーのうまみ成分を残さずフルに味わおうと思ったら、初期のように歴史的な淹れかたをするか、現代でも(コーヒー飲用の起源地たる)中東地域では一般的なトルコ・コーヒーみたいにやるか、どっちかしかありません。

 

フレンチ・プレスは、こうしたコーヒーの味わいをフルに楽しみたい&歴史を実感したいという面と、淹れやすく飲みやすいという実用面の双方をまずまず折衷できる、そこそこいい妥協点なんです。フィルター・ドリップ方式ではほぼ味わえないコーヒー・オイルもちゃんと出ます。

 

フレンチ・プレスの金属製メッシュはペーパー・フィルターなどとは仕組みが根本的に異なるものですから、ミルで豆を挽く際に極粗挽きにしてみてもどうしても出てしまう微粉がコーヒー液のなかに混じり込み、注いだカップの底に沈殿します。

 

ですので、カップの底の最後の一滴まで飲みきることはできず、その直前でストップするしかありません。あとくちがちょっとあれなんですけども、コーヒーのうまみ成分であるオイルが余さず液のなかに出てきますので、濃厚でフル・ボディな味わいになって、もうホントそれがずいぶんとおいしくて、コーヒー・タイムが楽しいんです。

 

コーヒーの極細微粉と油分がいっしょくたで液に混じり込むわけですから、もちろんプレス器具のケース内部も金属製メッシュも注いだカップの内壁面も、どろどろによごれます。洗剤を使っての洗浄もめんどくさい。

 

でも「ある程度」コーヒーの歴史を感じつつ真のうまみを味わうように飲みたいと思えば、日本の一般家庭人にはこれがほぼ唯一に近い選択肢。よごれるので洗浄が…っていうのはトルコ・コーヒーでもそうだし、初期の歴史的淹れかたでも同じだったはず。

 

ぼくだっていつもフレンチ・プレスで淹れているわけではなく、そのつど気分でフィルター・ドリップ方式と使い分けていますし、アイス・コーヒーをつくるときはドリップ方式じゃないとおいしいのができないですね。毎日一度はフレンチ・プレスで淹れたフル・ボディの濃厚なホット・コーヒーを飲んで、楽しいひとときを音楽とともに味わっています。

 

(written 2021.12.23)

2022/01/19

サブスク世代のレトロ・ブルーズ 〜 エディ 9V


(3 min read)

 

Eddie 9V / Little Black Flies
https://open.spotify.com/album/3IELDMdo0nbuzRSduoXYwJ?si=sulMTeAJRqWGMQo1A6RSfg

 

なかなかに痛快でちょっとオタクっぽくて好感が持てる白人ブルーズ・ギターリスト&シンガーのエディ 9V(ナイン・ヴォルト)。9ボルト電池ってことだと思うので、だからエレキ・ギター小僧と名乗っているんでしょう。

 

本名はメイスン・ブルックス・ケリー。ジョージア州アトランタ出身で、なんでも15歳のころに学校へ行くことも仕事に就くことも拒否して、地元のブルーズ・クラブ・サーキットへの参加を表明。ちょっとオールド・ファッションドな生きかたかもねえ。

 

2019年にデビュー・アルバムをリリースし、きょう話題にする本作『リトル・ブラック・フライズ』は、フル・アルバムとして三作目にあたるものみたいです。2021年5月リリースだったこれでぼくはエディに出会いました。

 

ちょっぴりロー・ファイなサウンドにわざと加工して1950年代シカゴ・ブルーズみたいに聴こえるようにしてあるこのアルバム、収録曲はアルバート・キング(11)とかジミー・リード(12)などのカヴァーを除き、エディとプロデューサー、レイン・ケリーとの共作オリジナル。

 

バンド(エディのほか、たぶんサイド・ギター、ハーモニカ、オルガン、ベース、ドラムス)でスタジオ入りしてのほぼライヴ一発録りだったそう。そんな生のブルーズ・フィールがこのアルバムにはあふれていて、バンドでのエレキ・ブルーズを聴き慣れた、それも往年のシカゴ・ブルーズ系が好きな人間には、たまらないレトロ感。

 

ボビー・マーチャンふうあり、ジェイムズ・カーふうあり、マディ・ウォーターズふうあり、エルモア・ジェイムズふうありで、エディ自身このへんのグッド・オールド・ブルーズの世界にすっかり魅せられて、ずぶずぶにはまり込んでいるんだなあというのがよくわかります。

 

レトロ・ブームがある、ここ数年くらいか?かつての古い(ジャジーな)ポップスがリバイバルする動きがたしかな流れとして確立されつつある、それも新世代が取り組んでいるというのは間違いないコンテンポラリー・ムーヴメントだと言えますし、21世紀の音楽としてはまったく現代的訴求感のないブルーズの世界なんかでも似たような現象があるのかもしれません。

 

こういったレトロ・ブームの背景として、おそらく配信、それもサブスクで過去音源にだれでも自由かつ安価でどんどんアクセスできるようになったということがあるんじゃないかとぼくは考えています。

 

1990年代にも戦前ブルーズやクラシック・ロックなどのリバイバル・ブームがありましたが、あのころはちょうど当時の新メディアだったCDで、古い(SPやLPなどの)音源が立て続けにリイシューされ、それで当時の若年世代も過去の音楽になじんでいた時期でした。

 

エディ 9Vは現在24歳ですから、ぴったりサブスク世代というわけで、たぶんそういうことかと。

 

(written 2021.12.12)

2022/01/18

軽快で聴きやすいキューバン・ジャズ 〜 ハニオ・アブレウ


(3 min read)

 

Janio Abreu y Aire de Concierto / Hijo del Viento
https://open.spotify.com/album/2eEwlrdweK374c4IyPsSjc?si=oKgsMlgqRcC-Y6mRjw_f5w&dl_branch=1

 

bunboniさんに教わりました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-04-16

 

キューバはハバナ生まれらしいマルチ木管奏者、ハニオ・アブレウ。とそのバンドによる2019年作『Hijo del Viento』が聴きやすいキューバン・ジャズで、ぼく好み。Spotifyでさがすと新作ライヴ・アルバムも2020年に出ていますが、未聴です。

 

マルチ木管と書きましたが、実際ハニオは本作でクラリネット系、サックス系、フルートを吹きこなしています。+バンドはピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションという編成で、ほぼどれもハニオの自作曲を楽しく軽快に演奏しているのが聴いていて心地いいですね。木管は多重録音されているパートもあり。

 

楽しく軽快に、というそれがこのアルバム最大の特色じゃないかと思います。ラテン・ジャズってときどき暑苦しくなることもあるっていうか、むさ苦しさが聴きにくさにつながったりしているケースも散見されますが、ハニオの本作はそんな傾向と無縁。だからbunboniさんが言っているようにちょっとフュージョン寄りのポップさを感じさせたりするのがグッド。

 

曲もラスト8曲目を除いてハニオの自作ですが、どれもノリよくとっつきやすいメロディを持ち、それでいながらけっこう凝っていたりするんですよね。フックが利いているっていうか、ひとひねりしてあって、それなのに憶えやすい明快なメロディ・ライン、リフ・パターンです。テーマ部におけるリズム変化も特徴ですかね。

 

また、どの楽器を使うかによって、それにあわせ書く曲の傾向も変えているのがすばらしいところ。サックスよりも、個人的にはフルートを吹いているニ曲(3、7)と、クラリネットでやる5曲目の本格ダンソーンがお気に入り。特に3曲目の「Nostalgia」はいかにもフルートじゃないと表現できないリリカルさを持っていて、大好きです。

 

バンドであるアイレ・デ・コンシエルトは(8曲目のアレハンドロ・ファルコンじゃなく)レギュラー・ピアニストも際立つ腕を持っていて、本作ではある意味ハニオの木管よりもいいんじゃないかと思うほど耳をそば立てました。名前を知りたいなあ。好みのキューバン・ピアニストです。キューバっていいピアニストを輩出しますよね。

 

6曲目「Travesia」でも、そのピアニストによるテンポ・ルバートのプレリュード部がとてもいいですが、本編に入るとアルバム中唯一エレピとエレベが使われています。これなんかも聴きやすくてポップなキューバン・フュージョンの趣きで、好みです。

 

(written 2021.10.15)

2022/01/17

先月に引き続き富井トリオの新曲が出ました 〜「ヴェロニカ」


(2 min read)

 

富井トリオ / ヴェロニカ
https://www.youtube.com/watch?v=wXpwCZiORMw

 

とみー(1031jp)さんの富井トリオ、12月リリースだった「恋の果て」に続き、1月6日にさっそく新曲が出ました。「ヴェロニカ」(2022)。アートワークの数字が連番になっているし、シリーズ化するということなんですかね。それだったら歓迎です。
ワイドパンツ ガウチョパンツ

 

軽快なさわやか系ロックだった前曲にくらべ、今回の「ヴェロニカ」はタメの効いた深く粘っこいノリを持つミディアム・グルーヴ・チューン。奇妙なループ感もある、ややヒップ・ホップ寄りの一曲に仕立ててありますね。

 

ロー・ファイ・ヒップ・ホップっぽいフィーリングすらある「ヴェロニカ」。細部までかなりていねいにつくり込まれているんだということが、聴いているとわかるのも好印象。今回もソングライター&ギター&ヴォーカルはとみーさんで、ベース、ドラムスとも前曲と同一メンバー(なかなか豪華なメンツ)。

 

曲づくりの段階で、新曲はこういったビート感の曲にしようというのが念頭にあったはずですが、いざ演奏となって、この手のデジタルなコンピューター・ビート的なものを人力で表現できる原”GEN”秀樹さんの腕前にも感心します。とみーさんのヴォーカルも今回はややクールさが目立っている感じ(やはりラップもあり)。

 

日本の一般のインディ系ロック/ポップスのなかにも、こうしたヒップ・ホップ通過後みたいな新感覚グルーヴを表現する演奏ミュージシャンがどんどん出てきているんだとよく納得できる富井トリオの新曲「ヴェロニカ」、これもたいへん心地いいですね。

 

(written 2022.1.15)

2022/01/16

大貫妙子の「新しいシャツ」は原田知世という表現者を得た


(4 min read)

 

新しいシャツ
https://open.spotify.com/playlist/0McQKHXxufqAAUk2nxGLHt?si=900298d5348b474b

 

『恋愛小説3 〜 You & Me』(2020)収録の原田知世カヴァーで知った「新しいシャツ」。とてもいい、沁みてくる曲ですよ。1980年に大貫妙子が書いたもので、妙子自身なんども歌っているみたいです。

 

といってもぼくはただの知世ファンなだけで、大貫妙子についてはいままで名前だけ知っていたものの活動にあまり関心を寄せず、その曲や歌をあまり聴いてきませんでした。きらいとかどうとかではなく、なんとなく時間が経っただけ。

 

ところが知世『恋愛小説3』5曲目の「新しいシャツ」に、最初はそうでもなかったのが、近ごろなんだかとってもしんみり感じ入るようになってきたんです。だれだか知らないけど(CD買ってないから)伴奏ピアニストもみごと。ピアノ独奏だけで知世が歌っています。

 

そしてなんといっても曲がいいです。二人の別れの風景を描いたものなんですけど、淡々とおだやかでいる主人公の心情をつづるメロディがこりゃまた絶妙に美しくて、涙が出そう。「(あなたの心が)いまはとてもよくわかる」部分、特に「とてもよく」とクロマティックに動く旋律にふるえてしまうんです。

 

ソングライターとしての妙子の才に感心するゆえんですが、このことにいままで長年、そう50年近い音楽リスナー歴でまったく、気づいていませんでした。知世ヴァージョンがあまりにすばらしく響くので、Spotifyアプリでクレジットを見て、それではじめて妙子の曲だと知ったくらいですから。

 

さがしてみたら妙子自身が歌う「新しいシャツ」は三つあるようです。1980年の『ROMANTIQUE』収録のものがオリジナル。当時現役バンドだったYMOの三人とその人脈がサポートしたアルバムで、この「新しいシャツ」は個人的にイマイチ。

 

その後二種類あるのはいずれもアクースティック・ヴァージョン。妙子は1987年からずっとアクースティック・ライヴを続けているようで、近年の活動の軸になっているみたい。ピアノとストリング・カルテットだけで自身の書いた曲を静かに歌うというシリーズ。

 

妙子アクースティック・ヴァージョンの「新しいシャツ」二つは、スタジオ録音の『pure acoustic』(一般発売は1996)のものとライヴ収録による『Pure Acoustic 2018』(2018)のもの。いずれも上述のとおりの伴奏で歌ったものです。

 

それが実にいいんですね。シンプルで静かな伴奏が、別れのときにおだやかにたたずんでいるという心象をうまく描写できています。ピアノ一台だけの伴奏という知世ヴァージョンをプロデュースした伊藤ゴローも、それらを参照したに違いありません。

 

個人的な好みで言えば、妙子の声のトーンと細かなフレイジングに装飾のない96年『pure acoustic』ヴァージョンは、よりすばらしいと感じます。フレーズ末尾で変化や抑揚をつけずストレートに歌うのがこの歌の内容にはとても似合っているような気がしますから。

 

実はまさにこの意味においてこそ、原田知世ヴァージョンこそ至高のもの。声質そのものが素直でナイーヴで、ふだんからどうという工夫や装飾もせず淡々と歌う知世のスタイルは、「新しいシャツ」という曲にフィットしているし、静かに弾かれる一台のピアノだけという伴奏も絶好の背景です。

 

大貫妙子の「新しいシャツ」は2020年になって原田知世という最高の表現者を得たのだろうと思います。と言えるほど知世『恋愛小説3 〜 You & Me』収録ヴァージョンはあまりにもすばらしく、切なく、美しい。

 

(written 2022.1.12)

2022/01/15

筋骨隆々の肉体美 〜 ダンプスタファンク


(3 min read)

 

Dumpstaphunk / Where Do We Go From Here
https://open.spotify.com/album/6aVAwiFG24G3VJNedr5ues?si=dFvWGT-UTJeiTtraxt2ZSg

 

ニュー・オーリンズのファンク・バンド、ダンプスタファンクの最新作『Where Do We Go From Here』(2021)。Astralさんもbunboniさんも書いていたので、いつもお先にどうぞなぼくがいまさらなにも言うことはないなと思ったんですけど、


(Astralさん)https://astral-clave.blog.ss-blog.jp/2021-04-23
(bunboniさん)https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-05-02

 

とはいえ超カァ〜ッコイイので、簡素でいいからちょっとだけ自分の記録として残しておかなくちゃ気が済まないっていう、そういう性分なもんで。これ、たぶん、わかっていただけるんじゃないかと。

 

それで、こういうのはプロレス的世界、肉弾あいまみえるばきばきマッチョでファロゴセントリックな音楽ですから(リング入場曲に似合いそう)、近ごろはおだやかで静かでやさしいサウンドを好む気分のときが多いぼくなんかは、やや遠慮したくなったりすることも。

 

がしかし聴いたら聴いたでカッコよく感じて気分いい、アガるというのもたしかなこと。たまにはボディビルダーを眺めるのもいいです。ファンク・ミュージックってそういうもので、パートナーの女性を抑圧していた(バンド・メンバーにもパワハラひどかったらしい)ジェイムズ・ブラウンだって、ときおり聴いてみたら快感でしょう。

 

ダンプスタファンクのこの新作、ぼく好みのファンク・ビートというとたとえば2曲目「メイク・イット・アフター・オール」のこの感じとか、いいですよねえ。これですよ、これが肉体派ファンク・ミュージックの真骨頂。皮膚に血管浮き出しそうなほどの高揚感。

 

7曲目「イン・タイム」も最高。いうまでもなくスライ&ファミリー・ストーンのあれのカヴァーですが、スライのすかしたクールなぺなぺなサウンドが、ここでは人力剛腕で濃厚なヘヴィ・ファンクに生まれ変わっているという料理ぶり。正攻法をつらぬくダンプスタファンクの本領発揮でしょう。

 

このアルバムにはインストルメンタル・ナンバーが数曲あるのもぼくの好みに合致しています。3「バックウォッシュ」、6「イッチー・ブー」、9「ダンプスタメンタル」。どれも聴きごたえ充分で、重量感がありながらシンコペイトの聴いた跳ねるビートがダンサブル。ニュー・オーリンズ的でもありPファンクのようでもあり。

 

(written 2021.12.10)

2022/01/14

昭和オヤジ系インスト・ロック 〜 ロス・マンボ・ジャンボ


(3 min read)

 

Los Mambo Jambo / Exotic Rendezvous
https://open.spotify.com/album/6PrrbUKDVWnf40OmiXH4wp?si=yO2mmOqKTLK3DIhN6q9jcg

 

いかにもなゲテモノ感満載のこのいかがわしいジャケットはどうですか。アルバム題だってどうにも...だけど、そのイメージそのまんまの音楽が聴こえてくるロス・マンボ・ジャンボの新作『エキゾティック・ランデヴー』(2021)。スペインはバルセロナのバンドみたいで、名前はたぶんこれペレス・プラードの有名曲から取ったんでしょうね。

 

でもマンボなどラテンな感触はほとんどなく、リズム&ブルーズとか、ロカビリーとか、ジャイヴものとか、そういうごきげんなヴィンテージ・グルーヴをマニアックに演奏して聴かせる下世話インストルメンタル・バンドなんです。

 

サックス、ギター、コントラバス、ドラムスの四人が基本編成で、アルバムによってはゲストがいたりビッグ・バンドでやったものもあるみたいですが、全編モノラル・ミックスのこの新作ではシンプルに四人だけで演奏しています。

 

B級インスト・ロック三昧というか、日本でもグループ・サウンズ全盛の1960年代あたりによく聴いたあの感じ、刑事ものとかスパイものやミステリなどのTVドラマや映画で頻繁に流れていたあんなBGMの雰囲気そのまんまなんですよね。59歳のぼくの世代なんかだと、記憶もさだかでない幼少時のぼんやりしたノスタルジーをかきたてられるサウンドです。

 

だからもちろん2021年の新作だからといって現代性なんかはぜんぜんなし。ポップス界における近年のいわゆるリバイバル・ブームとはなんの関係もなさそうで、ただなんとなくこういった世界が好きな連中が時代感無視で勝手にやっているお楽しみ音楽といったところでしょうね。

 

1960年代にまだ生まれていなかった若い世代のリスナーは、こういった音楽をどうとらえるんでしょうか。でも完璧「昭和」としか言いようのないこの世界に(デジタルではない)そこはかとない魅力を感じ接近していく若年層がけっこういるというニュースをよく見ますからねえ、郷愁ではなく新鮮な気持ちで素直に聴けるかもしれないですね。

 

演奏している当のロス・マンボ・ジャンボの四人だって、ひょっとしたらオヤジ世代そのものじゃなく、オッサン趣味の若年新世代で構成されているのかもしれませんし。

 

(written 2021.12.14)

«シュートできるように導いたチームがすごいのさ 〜 スティーヴ・クロッパー

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